嗚呼、古巣今川よ

第12話 変わった歴史を戻そうと

天文十七年(1548年) 尾張国 熱田 加藤屋敷 門前

 

 

 どうだ見てくれ、太いだろう?

 と、わしは磨きの甘い枇杷の棒に麻布を巻き付けていた。

 そうして作った命名:MIZUNO棒を加藤屋敷の中庭で振ってみる。


……いい具合である。


 そうして手製のバットで遊んでいると、呼び出した人物が到着したようだ。

 門前で待っていたので、背後から声をかけられた。

 お手紙の結果である。

 

「ええと、お前が竹千代かい?」


 若い侍である。

 久松と名乗ったので父のホールキョーダイ(意味深)の縁者か本人であろう。


 ママったらヤッサシー(棒)


 彼は、微妙な表情である。

 さもありなん、わし嫁の連れ子? だもんな。

 最も、わしとしても三郎殿の指示でぶっ殺した相手。

 その関係者と言うか当事者なので微妙な気持ちになる。

 言わないけど、義父だと思ってたしな。


「ああ、松平竹千代だ」


 わしが言うと、久松何某は鼻を鳴らした。


「人質……の割には堂々としてるな」


 彼はわしを馬鹿にしたつもりでなく、鼻炎なのだろう。 

 わしは曖昧に笑った。  


「気を張らねばな。ただでさえ、広忠の息子という事で笑われてる」


「それで、松平の竹千代はわざわざ御家に連絡して何の用だ?」


 わしは彼を見上げた。 

 この時期の知多半島は親織田が混在する状況であった。

 邪魔だからと、織豊が排除するまでは大きな家も健在だったしな。

 三河と尾張の要所故、軽んじていい土地ではない。

 そして久松は知多に縁あるからか、今川へも伝手があった。

 

「母への手紙がそんなに悪いか?」


「はん?」


 本当にそれだけかよ、信じられない。

 そう久松は言いつつも近づく。


「……して今川への人質交換の際に便宜を図れってのは本気か?」


「ああ、そうだとも」


 ここで、わしはここしばらくの織田家の動きを思い出した。


□□□□


 我が父の蛮行。

 ええと城攻略からの、女武者をハ●エース(動詞)って、なんだこの言葉? 

 兎も角、これをしたせいで父の評価は真っ二つに割れた。

   

「息子を殺さんと欲せば即ち殺せ、吾一子の故を以て信を隣国に失はんや」


 とか言ったてた父って、ちょっと人気あった。

 実際、織田家内では【広忠サンカッケイ】とか微妙に評価が高かった。 

 だが、

 

 織田家の姫をSENKA。

 代々の家臣を、無視してほっぽり出す。

 本拠地捨てての臣従。


 は、流石に擁護出来ない立場の者が多かった。

 なので、


「姉上を手籠めにした馬鹿を殺せ!」 


「野戦だけでなく攻城でも力を見せた」


「本貫を捨ててでも威を見せるのは武士と言えるか?」


「息子すら武略として切り捨てる、ぐう畜生、痺れる」


「それでも城を取れる、攻城上手」


 と、様々な意見が出た。

 でね? 織田からしたらね?

 もう松平はオワコン、人質不要じゃね? となるわけだ。

 おまけに親父も息子を消すことに躊躇が無くなったらしい。

 阿保みたいに、実家から刺客が来ましたよ。


 無論返り討ちにしてやったけどな!


 だから、わしは既に幼児にして殺人犯だ。

 殺人ほう助もしてる。マジで笑えない。

 

 けれども戦をせずに、こんな仁義なき戦いを許したら、シャレにならない。

 暗殺は手段としては下策なのだが、確実なのもまた事実。

 わしは悩みに悩んでから、割り切った。

 そして加藤殿に進言した。

 今こそ、わしらを今川へ送れとな。


□□□□


 わしは政治的な背景を理解している。

 だが、久松何某の反応は渋い。


「父や母の元ではなく、今川へ、か」


 彼から哀れまれてるのは理解していた。

 そりゃそうだろう、わしは数え8つの幼気いたいけな稚児。

 ママァ! と叫びたくなる年頃である。

 

……あと自制しなかったせいで、わしは気味悪がられてたらしい。


 稚児のような阿呆な行動をしながら、大の大人のような口をきく嫌なガキ。

 大々的な茶外茶の売り出しのせいで、将来は銭侍ぜにざむらいだと馬鹿にされてたようだ。

 でもって暗闘してるのがバレ、身辺警護から織田ん家の忍びが消えた。

 未だに織田側の護衛いるが、わしらへの監視の度合いが強まった


「本当に、元服前か?」


 その言葉に対し、わしは曖昧な表情してやるもんね!


「母の元に身を寄せるのも出来るのだぞ」


 親切心からの言葉だろうとは思う。


「さぞ邪魔な坊主になろう」


 だが、わしは真っ直ぐ答えた。

 久松何某は、きまりが悪そうに顎をする。

 それから、わしに言った。


「であるなら、そなたの祖母の同行は認めてくれるな?」


「ええ」


 そこで会話が終わる。

 久松何某は、そのまま帰るらしい。

 呼び出したのはこちらなので、加藤殿にお願いして銭を渡してもらった。

 困るものではないだろう。


 これで第一段階はクリアだ。

 久松がネゴシエーションしてくれてもくれなくてもいい。

 親不孝に、ならないための行動なのだ。あ、ママに対してだぞ?

 すべて終えて、さっさと逃げよう、尾張から(激寒ギャグ)。

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