第13話 やきうしながらドラフト会議
天文十七年 尾張国 熱田 加藤屋敷 近くの空き地
久松何某との会話から、しばらく。
待ちきれなかったらしい天野がボール(ボロ布製の高級品だ)片手にやって来た。
遅いから迎えに来たのだろう。
「あの、竹千代様? あの武士と、なんの話を?」
「ん? ……まあつまらん話だよ」
そうツマラナイ話である。
今川に「よろしく」って話だけだもん。
実際、久松でなくてもいい話だし。
そも思い返せば、だ。
今川家がわしを手元に置いたのは三河を手に入れるためだ。
……清康が西三河統一した過去は皆覚えている。
宗家筋である吉良を否定するために、そんな松平を上手く使う。
恐らくそのようなドクトリンを当時の今川家は持っていたのだろう。
賢い、流石師匠。
「つまらない?」
天野が不思議そうに尋ねる。
「うむ、つまらんぞ。磯野のいない、やきうのようなものだ」
「なんと」
磯野とは加藤屋敷近くに住む小僧である。
いつの間にか? 我々の遊び仲間となっていた。
奴は玉投げがめちゃくちゃ上手いのだ。
ヤツなら愛工●名電を名乗れるだろう。
「なので、この新しい伐吐……MIZUNOを貸してやるから先に行っておれ」
何故か無性にギャンブルしたくなった。
水原だよな?
「はい!!」
いい返事で去っていく天野。
その背を見ながら、わしは思考を深める。
―――どうにもわしの知る過去と、現在は乖離が大きい。
信長の父、信秀殿は健在であるし、父の奇行も予想外だ。
ここで、わしが駿府に行かないと言う手も取れる。
……だが、父の略奪婚でそれすら難しくなった。
であれば、追放された岡崎城の主君筋として一度は今川へ飛び込む方がいい。
史実を知るからと、尾張で人材ドラフトやっても今は無意味だ。
そりゃ織田信長、豊臣秀吉の覇道を支えた人材群は興味がある。
彼らに色気を感じないかと言えば、あるけれども。
特にただでさえ弱い、豊臣系の縁故はぶっ壊して起きたかったんだが……
「不本意ながら今川家中は勝手知ったるし、な」
後々考えると、今川で強い柵を作るのは悪手である。
最終的に落ちる家と結ぶのは、得策とは言えまい。
それに、太閤殿の元へ石川和正が出奔したせいで、だ。
一度は、わしの手の内が筒抜けになるのだ。
抑えるべき家だけ縁を結ぶなら、織田にいて出来ないことはない。
何より三郎殿、藤吉郎殿を警戒できる。
だが、今の織田なら今川の方がマシだ。
正直、父がどう動くか分らんのが怖すぎる。
水野が滅んだ今、わしの価値は底値更新しているしな。
一応、織田にいなが親父らを、ぶっ殺せないことはない。
だが危険度を考えると、実行には出来ない。
父を排してわしが優遇される理由も価値もないのだから。
であれば、その後の予想がつかない状況を、自分から動かすのは流石に不味い。
疑われず、さりとて好機を待つなら今川の方が適している。
なあに、乾坤一発の三郎殿の桶狭間が失敗してもだ。
今川の隙さえつければ、旗印として岡崎に凱旋できる。
よって今は雌伏の時。
今川に引きこもるのが吉だと思う。
それに、歴史の流れを守っておくほうが良いとも思う。
だとすれば、わしは猶更、今川へ行くべきであろうさ。
師匠にも会いたいし。色々嫌だけど。
そして井伊だけは絶対、回収しておきたい。
猛将かつ冷徹な政治家のアイツがいなけりゃ元和偃武のハードルが上がる。
そして今川で、対武田への窓口も早めに作りたい。
そうすれば甲州征伐時に、もっともっと上手くやれるだろうしな。
「そのためには、今のままではダメ、積極的に動くのも考えるか……」
ボソッとわしはわしに言い聞かせるように言った。
離れの広場から、歓声が聞こえる。
……磯野が無双しているのやもしれん。
ここはね?
この時空における野球の発明者にして、変化球の担い手たるわしの出番じゃね?
「お前ら、わしも混ぜろ!!」
この後、めちゃくちゃ三振奪った。
わしは大リーガーになる!!
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