第14話 プロフェッショナル段蔵

天文十七年 尾張国 熱田 加藤屋敷 応接間


 服部ん家の下働きは、分類の上では忍びではある。

 が、ニンジャとしては素人である。

 やっぱり玄人プロが欲しい。


 という事で、わしは方々のプロ忍に、それとなく営業をかけていた。


 だが、稚児に会いに来てくれるようなモノ好きはそうそうおらず……

 正直困り果てていた。そんなもんだと納得もしてたが。


 いや、服部ん家の忍びが悪いわけではないのだよ?


 お相の実家や瀬名姫へのメールボーイとして愛用してます。

 いつも、わしの代わりにありがとう。

 将来は郵便をやらせよう。

 そうしよう。


 だが、どうせなら?

 プロ忍がいいのである。皆、違うかい?

 忍者はプロに限る、古事記にも書いてある。


 だって日本全国津々浦々、忍者は潜んでいる。

 伊賀とか甲賀とか軒猿とか戸隠とか弘前とか。

 すごいニンジャが、わしも欲しいのだ。

 修験者でも可。キリシタンは不可。


 そんな時である。

 行商人に扮してだ。

 依頼していた超有名忍者が、わしに会いに来てくれた。


■■■


 部屋に通すと、行商人が平伏する。


「加藤段蔵にござる」


 わしはビビった。

 関東方面の甲賀や風魔系、または真田忍軍の無名時代へ声をかけはした。

 しかしだね、採用活動したら、よもやよもやで超有名人が釣れたのである。

 これには驚く。

 正直、青山虎之助あたりかと思ってたんだ。

 

 かっぁー!! やっぱり甲賀はダメだ! やっぱり伊賀ぞ!!


 だから甲賀はバジリ●ク・●イムなんだ。


「よく来た加藤殿。とび加藤と言われる御仁で違いないかな?」


「間違いなく」


 わしは彼を見る。

 彼は、上杉謙信が危険視し殺そうとしたほどの手練れの忍と言う。

 が、会うのは初めてである。

 果心居士なら若干付き合いあったが……?


「何故わしと会おうと思った?」


「あれほど熱心に誘われては師も悩み申す。拙者はその名代です」


 師? 誰だ? そんな熱心だったろうか?

 城を取ったら士分にして一族郎党雇い入れる。

 服部ん家と言うか、御庭番らにやったこと変わらんが……?


 まあ、普通の武家はやらんな。


 金があるか、情報を重要視するか。

 どっちかの理由がないと忍びは無駄に見えるのだ。

 外注で見せかけの業績は上がるしね。


「して竹千代殿は、我らに何を望まれるか?」


 まあ手紙では嘯けても、わしの本音を聞きたいってところか。

 今川も諜報組織は持っていたはず。

 だが、北条には劣るのは事実だ。

 そこいらを加味しつつ、わしが何を言い出すかが気になるって感じかな?


「できるなら、わしが望んだ時に父の暗殺をお願いしたい」


「父殺し、ですか」


 目が細まる。

 道徳的に最低なことを言ってる自覚はある。

 子殺しより、親殺しは嫌われるからな。

 嫁や子供に酷いことをしても、逆ってのは戦国の世では珍しい。

 アジアの普遍的な儒教的価値観からすると、完全に黒な発言だしな。


「父はわしが面倒らしい」


「世も末ですな」


「まったくだ」


 どこもかしこも血気盛んだ。

 権力はヒトを歪めてやまない。

 わしは、努めて平坦な調子で言う。


「わしが岡崎取ったら、直臣でどうだ?」


「空手形ですなあ」


 笑って即答された。

 悪い気はしないのだろう、顔が明るい。

 わしも分かってる。向こうもそうだろう。

 

「なら、手付にこれだ」


 わしは、とある小道具を渡す。

 加藤殿に親しい根付職人に作らせた、小物だ。

 当初は玩具として頼んだ。

 だから何に使う道具なのか、わし以外はわかってないはずだ。


「それは?」


「火付け機だ。火口さえあればどこでも火が付く」


 わしは実演する。

 ルソンで三浦按針が発見し、澳門での吸血鬼退治で使用したのを複製した。

 玩具として指物師に依頼したが、良い出来だ。


 ん? なんか存在しない記憶の気がするが……?


 あれ、按針ってバンパイヤハンターだっけ?

 わしが有り得ない記憶に困惑していると段蔵が問う。


「………もしそうなら、そんなものを何故私に?」


「恩を売っておきたいのよ」


 わしはそう言った。

 やああって、段蔵は言った。


「せっかくのお誘いは嬉しくも、仕える事は難しく。

 ですが竹千代様がお困りの時には合力しましよう」


「では、それで頼む。わしは駿府に送られるのでな。気軽に何時でも訪ねてこられよ、茶でも出そう」


 彼の士官は無理だったか。

 まあいい、知己は得たのでよし。

 青山を探せばいいさ。うん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る