第26話 再起だって、どうする?
天文18年(1549年) 近江
焚き火の淡い光で影が踊る。
賢い方だと期待してたんだけどさ。
わしは石川計画第二の顔をまじまじ見た。
「お前、馬鹿じゃの」
そうマジレスをぶつけてやった。
「馬鹿とは何ですか、貴方様は何年も待てる側でしょうが」
そう返される。
だが、こちらは大真面目である。
青二歳、色々教えてやんよ。
「何故、わしに皆が従ったと思う?」
家成は黙った。
「わしにはな、
「現代日本の言葉です」
そーゆーツッコミ、ぼくちん嫌い。
オメーね、オメーのせいで俺おかしくなってんだぞ? そう混じった誰かが詰る。
だが口にせず、諦め混じりで言う。
「……今はいいだろ今は。そう、最早わしには一つも望めない」
今川の政務見習いでもない。
初陣を済ませた若武者なわけでもない。
そして三河の松平宗家の後継者でもない。
ここから成り上がるのは前回より厳しい。
下手するとわし一代では不可能だ。
「わしは裸一貫、そうだとも。付き従う兵がいないのだ。何が出来ようか? 太閤殿の後始末に改易、あれは力と時間があった。わしが徒手空拳で、今から最終的にあそこまでの権力を得られると本気で思うのか?」
出来る人間はいるだろう。
小田原の地点で、わしは藤吉郎殿がそうなのだと分かった。
しかし、そんな藤吉郎殿はわしが恐ろしかった。
だから関東に封じた。
でもって、それゆえ武田の遺臣をわしが回収出来たと言える。
ぬかった、脱線した。
「なあ、今や、家臣もおらんのにどうせいと?」
人は世を動かずが、個人は無力だ。
三好で羽ばたいた松永。
あるいは織田で芽生えた羽柴。
後見があるからこそ、その後の飛躍があったのだ。
今のわしってどーよ? 何もないぞ。
わしがそう問うと、家成は迷うことなく言った。
「わかっております。であればこそです。山中鹿介か三木良頼しましょう」
松永や宇喜田でなく、そっちなの?!
「何言ってる? 正気か?!」
山中鹿之助とは戦国の耽美系マゾ美男子である。
―――願わくば、我に七難八苦を与えたまへ
とわざわざ無理ゲー死にゲーである日本国の戦国時代。
そこで自分から難易度:ルナティックを選んだ勇者でもある。
なお、わしは奴をソシオパスと信じてる。
こいつの頭に詰まってたのは、美化された尼子の物語に違いない。
でなけりゃ降伏した尼子当主の奪還を試みなかったことに説明が付けられない。
そんでもって、コイツ、そんな自分に酔ってた。
下痢を装って汚いところから脱出した逸話も、それを補強する。
スカトロールを耐えるほど、アイツって覚悟ガンギマリだった。
主家に尽くすのは美徳。だが、奴は状況が見えてなかった。
三度も尼子再興をもくろんだのは悪くない。
尼子の没落で家臣の多くが、領地を失い、切羽詰まったのは理解する。
が、反毛利、でもって題目として立てた主君残しての自分の降伏はどうかと思う。
時期的なことを擁護すれば、まあ、三郎殿が悪かったのもあるが。
そんな山中鹿之助は、いい。
問題は三木良頼、彼は飛騨国を取った男だ。
わしは彼を、そこまで無能だとは思わない。
自立し、名跡を奪って朝廷に貴種として認めさせる。
手段は悪くない。また小さいながら飛騨一国をまとめたのだ。
が、こいつはそこから進むことが出来なかった。
江馬を下せず、美濃へも出れず、結果上杉と武田に阻まれた。
どちらも、問題ある経歴だろう。
そんな二人になれって、コイツ何言ってんだ?
もっと真似すべき人がいるだろうに。
北条得宗家とか、細川さん家とか。
いや、源頼朝ちゃんかしら?
「織田が滅ぼした家の再興とか、家柄乗っ取りとかという事です」
あ、そういう事。
それもバックがねえと厳しいんだが?
水野のオジキもパッパが潰したんだが……
「なんにせよ、我らは貴方様に勝っていただかないと困るのです」
困ると言われても。
コンビニに行く感覚で、成り上がりが出来ると思わないでほしい。
コネもなんもないんやぞ、今のわしには。
「まあ嘆いても仕方がありません。
大気圏飛行可能な宇宙戦闘艦やら、物質複製機、重AI、生体兵器とかはウカツに持ち込めませんが、その分こちらは各種解析させていただきました」
なんだか知らん。
が、禍々しい単語と不安になる発言だな。
「まず現状の歴史汚染ですが、被害者多数でした」
聞き逃せない言葉である。
「やっぱり……わし以外にも被害者おったんか」
かわいそすな人、元気にして欲しい。
「まずド定番の武将TS汚染被害が多いですね」
それはわかる。
知り合いが多数女になってそうで怖いのだ。
忠勝とかメスになってそうや……
「山梨県民どもによる武田強化とそれによる長野県いじめ、中部圏による織豊上げ強化、あとカルト的な人気からか太田・小田強化も確認されております」
武田強化は……今川で納得しよう。
太田、小田って関東だっけ?
長野いじめって何だよ。
「また同じくして、今川ヨシモトのや●し師匠変換、足利将軍の魔改造も行われており、著名な人物に対して多数の別人格・情報添加が行われたようです」
「……それは藤吉郎殿や三郎殿もか?」
気になったことをわしは質問した。
「今のところ、両者に兆候ありませんが」
そう言って彼は荒田荘を見る。
気だるげに(と言うか、普段から病を疑うほどダウナーな)奴は答える。
「イエヤス含めて、全員汚染済みと思った方がいい」
わしは、第二に問い直す。
「今の発言、信用できるか?」
「彼は本質的には我らの敵ですからね、そんな彼の発言なら間違いないでしょう」
となると三英傑全員、おかしなことになってるのか。
「ふむ。それで三河追われたわし、詰んでね?」
やらないが切腹しようかな、と思った。
前回よりもハードでタフであることを要求されそうだ。
無慈悲に石川計画第二は続ける。
「ありがたいことに歴史改変者は纏まりを得てないようです」
「なあ、わしの話聞いてる?」
ヤツは咳払いした。
「もちろんです。大目標としては貴方様による天下統一。
中期目標は戦国大名としての独立自立。短期の目標としては、戦の経験を得つつ、子飼いと領地を得る。こんなところでしょう」
ふざけてるかと思ったが、一応まともな意見が出て安心する。
「と言うわけで、どうせ西に落ちるなら九州です。そのために力を付ける。癪ですが、まず京で潜伏して力を貯めましょう」
訂正、なにいってんだこいつ。
出来るわけねえだろ。
荒田荘も困惑してた。
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