第25話 グダグダ西国道中

天文18年(1549年) 近江 


 悩むと、ろくなことを考えない。


 京(副音声:海外)ではこんなことがあるんですよ。


 狂った幻聴が聞こえた気がした。

 が、気のせいであろう。


……旅を始めて五日目だ。もう間もなく京に入る。


 あの後、わしだけが脱出させられた。

 バッバはマッマのところへ身を寄せた。

 鳥居と天野と石川は……親元、岡崎への帰参が許されたらしい。

 全て謎な忍者からの伝聞だ。

 どうやら奴の依頼主は、わしを三河と完全に切り離したいらしい。

 そう、あの謎の忍者は言葉通り、わしを荒田荘に委ね脱出させた。


 そのままなら野垂れ死ぬ自信があったが、あの忍者も馬鹿ではなく……

 わしは京経由で九州へ送られることになった。

 わしの仮の身分は地下人の子、旅の友と監視を兼ねた護衛として保内商人らに化けた甲賀忍者らABCD。

 と、本来ならわしの敵と思しき荒田荘である。

 あと唯一、三河もんとしてわしの共が一人だけついてきた。


「京は伏魔殿だそうですよ」


 彼は数正そっくりの顔で言う。


「……らしいな」


 わしは馬借の駄馬に乗りながら、しれっと同行する男を見る。

 奴の名は、石川家成。

 和正の下位互換と見せかけた、わしの忠臣である。


「お前は、システムとか言わないんだな」


 わしがそういうと、石川彦五郎家成は笑った。


「何を仰っておられる?」


 ああ、よかったと安心したのもつかの間、家成は言う。 


「石川計画第二に無駄はありませんぞ」


 こいつも……厨二か。

 わしはゾッとした。

 しかし、助かったのもまた事実である。

  

「………とりあえず、夜にでも説明してくれ」

 

「畏まりました」 


 ひとまず当面の暗殺は収まった筈だ。

 父や織田の追撃がないことも、それを保証すると考えていいだろう。

 ただ、現状の状況は、わしが全く予想も付かない。

 思うところは多々あるが、まずは生きて耐えねばならん。

 仕返しは、後回しだ。

 まずは元服……覚えてやがれ、父上。


「………許すものか、なあ孕石」


 リベンジを胸に、わしは京を目指す。

 とにかく今は耐えるのだ。


□□□

  

 野営地で焚火を囲む。

 宿すら取れなかったので仕方がない。

 ふと家成が近づいてきた。

 道中襲ってきた賊を、拳骨一発で殺傷した荒田荘は、どぶろく片手に黙っている。

 どこで酒を買って来るのやら。

 と言うかパンチで一ひねりって、アイツの出身バトル漫画とかじゃねえ?

 見てくれも全身凶器の筋肉モリモリマッチョマンだし。


………だが、助かるのも事実だ。


 護衛としては大当たりだろう。

 槍は使わないが、剣術も達者であるし。

 いや……ドン引きするほどの腕だがな。

 矢切に始まり、こないだは燕返しで空中の木の葉を切ってた。大道芸と本人は言うが冗談だろ?

 フツーに二刀流やったの見た時たまげたわ。

 自称中条流と言うが、ほんとかいな。


「………あいつは無視して、答え合わせをしてくれ」


 わしは荒田荘を意識しないよう促すと、家成は語り出した。


「いいでしょう。念のため、周囲に防諜結界を張りました。

 まず、そも敵対者の歴史改変が我々の予測より強く、我々が介入開始した時点、つまり貴方様が再覚醒したときには大きく歴史改変がなされていました」


「そうか? そうなの?」


「女武者の多さは疑問に思いませんでしたか?」


 言われてみれば。

 あと、わしは信広と青山がメス堕ちしたことを思い出した。


「確かに……」


「他にも証拠は在ります。木綿なんて最たる例でしょう」

 

 わしはアッと、言いかけた。


「まあ地味に貴方様もやらかしてますが」


「わし?」


「そうです。貴方様も高濃度のミーム汚損されているようです」


 なんじゃそら。


「いいです? この時代にジャンケンもメンコもありません」


「え、わし前も遊んだ気がするんだけど?」


 女の子と野球拳とか楽しいよね?

 帯を引っ張ってクルクル最高。

 わしがそう言うと、家成は声を荒げた。


「そう、そこです! 前回は内緒で貴方様に一定の情報添加をさせていただきましたが」


「ちょっとまて、わしになにした?」


 わしは、家成を止めた。


「情報添付です。分かりやすくいいますと、貴方様に知識を入れたのです」


「……なるほど?」


 でも、事前に教えてね? 怖いから。


「しかし、その情報を事前に敵に汚染されていたようです」


「ダメじゃん。どういうこと?」


「本来なら炊き立て飯に梅干し程度だったのに、謎の具材の混ぜ飯にされたと思ってください。おまけに食えるかも不明」


 ある程度予想がついた。

 つまり白米食べたかった。

 なのに、混ぜご飯。

 かつ、ふりかけまでかけられたものか。


「概ね、その理解で間違いありません」 

 

 お前も心が読めるのね。


「しかし、どうするんだシステム「石川計画第二です」よ」


「どうするんだもありません。混ざったのは致し方ありませんので、現状で出来る事をしましょう。さすれば再起も叶うでしょう」


 そう語るなにがしに、わしは落胆を隠せなかった。

 具体的な案が何もないじゃん……

 見れば荒田荘が笑ってる。

 どうしろと。

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