第27話 代々大将軍
天文18年(1549年) 京 今出川御所
牛車に轢かれた下人が転生すると、そこは見知らぬ都であった(棒)。
とわしが現実逃避しても、京の都はそこにあった。
わーいやったー潜伏先だぁとはならない。
死体、死体、流民、公家、武家、寺社のワンダーランドな千年京。
日ノ本で一番凄い土地。
アジールありすぎて意味不明な土地。
同時に偉過ぎて色々なものが煮詰まってしまった地でもある。
………潜伏楽だけど地雷もたっぷり。嫌だぁー帰りてぇー
ちな、今現在は管領細川晴元が部下()である三好の力を借りて牛耳ってる。
公方? 主上? なぁにそれ状態でもある(ただし都合のいい権威としては◎)。
個人的な見解だが三郎殿が、この地で終わったのもわかる。
朝廷も公家も、おっかねえからな。
三郎殿が足利義昭殿を……ぶっ飛ばした原因は、この地と三好にもあると思う。
鎌倉末期の悪党の勃興で、
「身分なぞ関係ない。力こそが全てなのだァ」
と言う土壌は京の周囲にあった。
ただしよ? それを実行してみせた三好もどうかと思う。まあ赤松って前例あったけどさぁ……
そのスタンス(土地柄的にやらざるを得なかったと言うか……)大概よ?
そんな嫌なものまで、三郎殿は学習したのだろう。
おっと脱線した。
さて、そんな京の魔窟の一つ、花の御所って場所がある。
ここで幕府の行政サービスを一手に担う家がある。大変だね、今も昔も公僕って。
彼らを伊勢氏と言う。
この伊勢氏、栃木中の時からの足利君のパシ……んんッ 忠臣である。忠臣なの! 異世界転生味あるけどね!
『そう鬱』疑惑が後の世の学者から指摘されるヘッドのタカウジっち。
彼に従って、伊勢家は栃木県からワザワザやってきた。
広域指定反社組織、足利連合。
そのトップ兄弟の
祖先は桓武平氏、足利幕府では政所執事を世襲。
きっと文官筋なのだろう。ライバルいないし。
そこ、高兄弟がゲバ棒(刀)でアボンしたからとか言わない!
この伊勢家と我が松平家は前に言ったかもしれないが、うっすーい縁がある。
応仁の乱、今から90年ほど前のことだ。
賄賂だいしゅき、槍珍で、足利幕府?を足利幕府(笑)に貶めた悪吏。
そう酷く悪く言われた伊勢当主がいた。
彼の名を伊勢貞親と言う。
この御仁、わしのご先祖……松平信光の主君であるそうな。
そんな彼が松平に三河侵攻のお題目をくれたのだ。
その後、吉良、今川、斯波とか色々あってなあなあだけど。
ちなみに意図して意識して、なあなあになってるのだ。
が、一応かつての主君筋である。
だから松平のわしに会ってくれる……な訳がなかったのだが。
なんの因果であろうか?
彼らの代わりに当代の足利将軍が相手してくれるのだと言う。
意味不明である。
□□□
わしは平伏して待っている。
なんで将軍様に会えるんだ? と疑問でいっぱいである。織田信長さんも会ったが門前払いやったんやぞ。意味不明すぐる。
当初は商人どもに案内され、偉い人のところへって話だったよな? 金もないしコネになるかと、わしは誘いを受けた。
で、その間によくわかってない家成らの為に、わしが説明してたんだ。
松平の人間としてギリギリ呼ばれる可能性のある伊勢家のな。
が、その相手が伊勢家じゃなくて武家の棟梁とか聞いてない。
暴力の化身である荒田荘は、ふらりと消えやがった。
アイツゥ……美濃出身以外一切不明の風来坊め!!
脳みそ筋肉を恨んでいると、小姓だろうか? 複数の足音が聞こえた。
やがて公方様が到着したらしい。
「上様のおなーりー」
わしは板の目を数えるほど余裕があった。
わしも年食ってから周囲へ強制した勿体ぶった行動がまってるからである。
「表をあげよ」
ここはスルー。
「表をあげよ」
「はっ」
ここで返事、なお顔は上げない。
「それへ」
そう呼ばれ、わしは顔をあげた。
そこにいたのは足利13代将軍にして摂関家の血を引くが、今は小ぞ……
「………松平竹千代でござる」
わしは驚愕と、それによる笑いを必死でこらえた。
反則だろ。小僧どころか、見上げるような大男じゃねえか!
目の前の男に、わしは驚愕を堪えながら名乗った。
まず、わしの前の男の背丈と肉の厚みが可笑しかった。
確か公方は天文生まれ、恐らく1536のどこかで出生した筈だ。
彼は13才前後……だってのに……物理的にデカかった。
胸板どころか全身筋肉でパンパン。
髭も眉も顔も濃ゆい。
座高も高いが、脚も長そうだ。本当に日本人か? お前。
ジープとか冷蔵庫の界隈の人じゃない?
身近なフィジカルお化けを見ておかなければ、わし腰を抜かしてたかもしれん。
腕毛も黒々、日に焼け節くれ立った手は、武芸してなきゃ出来ないもんだ。
ガンギマリの目元も合わさり、たいへんキチ●イに見える。
ちょっと、ジェイソン=●ティサムぽくある。
「伊勢の被官だった事もある松平の子と聞く、何故京へ?」
渋いわ。本当に未成年?
「父に追われまして」
そう言うと、目の前の男は目を細めた。
「そうか」
会話が、会話が続かない!!
瀬名姫は無茶ぶりだが、コイツはプレッシャーが半端ない!!
「其方も父で苦労するか。余もだ」
たまらず真顔になる、わし。
お前の父ちゃんは公方()将軍()って感じだからなぁ……
と言うか歴代足利将軍ってみんな濃ゆいから、天丼ネタ感あるけど……
「余は能が好きだ」
唐突に何言ってんですか、将軍?
「能は良い。そうは思わんか?」
そうして懐から出された能面を見て、わしの脳内に雷が落ちた。
――――三好か松永か知らんが、果たしてコイツ殺しても死ぬんか?
どう見ても、ヤツは水晶湖出身の不死身の殺人鬼の化身だ。
その陰がちらついて仕方がないわしはしどろもどろなりながら会話を終えた。
やつなら琵琶湖疎水に沈めても復活すると思う。
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