第22話 間話:とある家康会会員は戦国で埋もれる
戦国時代、古田織部の兄に転生した。
弟は武士の子、俺は農民の子。
格差あるじゃん、あの仏、嘘つきやがった……
無事農民ライフで終わるかと思われたが、ふとした縁から野鍛治、つまり生活用品の鍛冶屋に弟子入りした。
何故かって? 今世のお袋の再婚相手だからだよ。
激動の一生かと思われたが、前半は半農スローライフなのだろうか……?
個人的にやり始めたことといえば、農民だと滅多に酒飲めないことを知って、焼酎とか果実酒を作り始めたくらいか。タバコ栽培は出来なかったよ……
焼酎の方は麦芽糖から醪を作っているのだが、村の連中、そして実父にねだられて困る。ビール未満エール未満をうまいうまいと飲む。山葡萄ワインに至っては、一度も飲めずに土岐の殿様にもってかれた。
そうそう鍛治師としてキャリアを積むならと刀鍛冶を目指した。
継父を説き伏せて二人で、なんちゃって刀鍛冶となった。
覚えててよかった高校化学。
素人がヘンテコに作るのに、モノはいいからだろう。知る人ぞ知る刀匠として名が売れるようになったが、有名になったのは継父の方だけ。
あれ? コレじゃない感が半端ない。
なんだろう、俺は、ちょっとすごい平民ですらないと言うか。
この通り実は俺、知識チートをやろうと思えば出来る。
俺が住むのは美濃国、文殊村。
ここは現代で言えば岐阜県本巣市北部で近くに石灰石の鉱山がある。
やろうと思えばコンクリを作れる。
しかし、俺は実行する気がなかった。
……設備費、成果物による歴史改変の度合が読めなかったからである。
例外は継父、四郎介との怪しい作刀に戦国時代では知られてない坩堝による特殊鋼と各種の酒のレシピだが、アレは個人的な技法の範囲だ。
どれだけ強く優れた刀を作ろうが、所詮ハンドメイド、大局には影響しない。
そして果実酒は縄文時代の再発見と、焼酎は時代の先取りなだけである。
……戦国の世で半年生きた俺は、何個かルールを己に課した。セルフ縛りである。
仏の言うことが全て嘘だとは思わない。
しかし、一般人の俺が家康をどうにか出来るとは思わない。
だから、家族と友の幸せが第一。
歴史は傍観者であるのが第二、悪戯に知識を出さない第三。
酒はやっちまった感じはあるが、麦酒は遅かれ早かれだ。
………そうして上手いこと10年くらいは生活してたんだが、加納口の戦いらへんからそうも言えなくなってきた。
俺は光秀の近くの同じ境遇のヤツにも会ったし、六角にもいることも知っている。
光秀の方には誘われたが俺は断った。
だが戦国の世は厳しい。結局、俺も徴兵されて戦に行く羽目になった。
嫌々戦ったんだが、俺、自分でも信じられないない程に強かった。
死にたくないからと棒切れ一つで出来るから、中条流富田派なる剣術をずっと近くの寺の僧から護身用に習ってたのだ。才能無いよな、俺。と思ってたんだが師匠が飛び抜けた天才だっただけらしい。
でもって戦に行って嫌なことを察した。
……アレ、俺、令和の世に生きたのにヒト殺し大丈夫だぞ?
となると人を無双ゲームよろしく軽々ぶっ殺しまくれる俺は村の中で浮くわけだ。
……しげは強いけど、やはり武士の子。
恐怖だろうな、村のみんなからしたら。
更に合鴨育てて食い続けた俺は飛び抜けた大男。継父と筋トレを頑張ったことで筋肉もモリモリだ。相槌やりまくってるから体幹もやべぇらしい。
再婚した母に異父弟が生まれたこともあり、俺は家を出た。
ただでさえ、どちらの弟の害になりかねないのだ。だから家を飛び出した。行く末は、野垂れ死ぬか、嫌だが得意な剣で身を立てるか。
それとも何処かで流れの鍛冶屋をやるか。
そう思って尾張へ。
………で、何でか知らんが、織田信長と知古を得た。
俺は1535年生まれ、ヤツは1534年。
ほぼ同世代だ。
だから気に入られたと言うより、俺が長身だったからだろう。
生活に難儀するほどの七尺の背丈が縁となるのだからよくわからん。
良くわからんが、ヤツは俺を子分だと公言しているらしい。
前田利家とセットに扱われるので諦めた。
そうして、そんな日々を過ごすうち俺はトクガワイエヤスを見た。
……中村●也?
そんな感じのイケメンのガキであった。
ノブナガは興味が薄かったようで、一度会えば十分だったらしい。
あった瞬間に、殺せるなと思ってしまった通り、俺は戦国に毒されたのだろう。
だが俺はしなかったし、興味もなかった。
……彼らの代わりに俺が天下を取る? 馬鹿馬鹿しい。
自分自身の主人であれば、それで十分だと俺は思う。
あと、お酒飲みたい。タバコも吸いたい。
確かに、この戦国は色々と可笑しい。
俺ですら少なからず変えているのだ。
他のヤツが好き勝手して日本を大きく変えているかもしれない。
だからと言って、俺はそれを正す気にもならなかった。
今は雇い主のノブナガの子分。
それでいい。まずいがタダ酒飲めるし。
……だったんだがなぁ、知らなかったが池田恒興も転生者らしい。
ふとしたことで、ヤツに俺が同類だとバレた。
で、アイツからイエヤスを監視しろと命じられた。
可能なら斬れだとさ。
……俺は分かったと言ってから、ムカつく池田をぶん殴ると織田家を出た。
さて家康を斬るかどうかで思案していると、三河が荒れてるとのうわさが流れた。
なんでも大変な状況らしい。
ほら、ここでも歴史が狂っていた。
……茶屋に強盗働こうとした野伏の首を片手で引っこ抜きつつ、俺は思う。
家康、お前、相当恨まれてるし日本は滅茶苦茶だぞ。
嗚呼、そんなことよりタバコが吸いたい。
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