第17話 マイホームでの数コマ

 天文18年(1548年) 駿府 松平屋敷


 今年で、数え9歳になった。

 まだまだ人質生活が続くと思うと、自由のなさ込みで憂鬱である。

 が、考えようによってはゼロ文タダ飯生活である。

 思えば、意外と人質生活楽しかったしな。


 わし、賢くね?


 とゆー訳で、わしは開きなおった。

 お気楽に友達と遊んだり、趣味の製薬やら薬酒造りをやった。

 ここでも銭侍と陰口されるも、わしは無視した。


………今は学び直して力を蓄える時だからである。


 そうそう師匠、雪斎にも師事出来た。

 あと瀬名姫と政略婚約も結んだ。

 何はともあれ、無事、引っ越しは終了した。

 そんなマイホーム、松平屋敷の出来事をいくつか紹介しよう。

 

■■■


 わしと数正は、庭で向き合っていた。

 男と男の真剣勝負の最終面であった。

 護衛の鳥居が立会人である。


「わしの番手じゃな……死ねい! 与七郎ぉ!!」


「あああああああああ!! 殿汚い! 殿ぉ!!」


 わしが叩きつけた(粘土すき込み特別製)メンコが数正のメンコを吹っ飛ばす。


「はっはっは、わしのメンコを同じと高をククッたのが敗因ぞ」


 悔しそうな又五郎から、わしは自作の力作メンコを奪い取る。

 八幡菩薩が描かれた、いいメンコだ。

 在野の絵の美味い和尚に描かせた逸品である。


 やっとわしの手に戻ったナァ………


 ほんと、こっそり改造したコイツを数正に奪われてから最悪だった。

 と言うか、わしの負け続きであった。

 天野なんて、数正にメンコを奪われまくった。

 そのせいで、今川家臣の小姓(意味深)してまで金策してたんだぞ。


 あ、わしの小遣い? 


 ヨシモーからもらった金とかゴニョゴニョでうまくやってるとも。

 あと、わし瀬名姫の名誉ヒモもやってるから彼女からの心付けでリッチなんよ。

 彼女へ平成のラブソングの歌詞を和歌に換えて送るだけで好感度花丸。

 オラ、かかってこいよ、ジャ●ラック。

 お相? まだ生まれてないけど彼女のパパへ毎回ガチで口説いてますが、なにか?


「ふッ、メンコ道の開祖たるわしが、お前らに負けるわけないだろ?!」


 わしがそう言いながら屈むと……何故か影が差した。


「ぬ? お前は天野……どうした又五郎?!」


「竹千代様 お覚悟!」


 あ、あれは!

 禁止されたハズの鉄板強化メンコ!

 なぜ、又五郎のような貧乏の手にあるのだ?!


「又五郎、わしが負けると思うたか!」


 わしは暗黒面に落ちた天野に向き直る!


「「一騎打ちじゃ、いざ勝負!!」」



□□□

  


 わしじゃ、竹千代じゃ。

 とまあ遊び以外も手習しておる。

 バッバ(うーむこげなイイ女だったか?)と駿府で合流したわし。

 無事自分が今川義元だと思い込んでる麻呂眉の男と面会した。

 やはり、義元も別人である。

 

 ヨシモーあんな顔してたか? どことなく、お笑い師匠っぽいぞ。


 まあいいか。

 あと、蹴鞠とタカリと剣術で金には絶対困らないマンである氏真とも面識得た。

 また隣の家の住人が孕石だって言うのもわかった。


 この孕石、わし大っ嫌い。

 早く●ねばいい。

 

 ちなみに今は手習いの時間である。

 無断だし、飽き飽きした手習いだから適当にやったら厳しくなったともいう。

 という事で、バッバがティチャーになって習字だ。

 わしも無心で、さらさらと書いてみた。


『人に出来、己だけに出来ぬことなどありはせぬ』


 と空色の狸が何故か想像できた。


「……竹千代様、お上手ですね」


 そうか? 

 ん? なんだ?

 バッバ様、わしに言いたいことある?


「あなたは賢い」


「うむ」


「けれども、隣の孕石様への執拗なの嫌がらせはどうにかなりませんか?」


「聞こえませぬ」


「鷹もいないのに『鷹狩の獲物がー!!』と叫びながら腐った肉やらネズミの死体を投げる。妾はびっくりしましたよ。穢れますのに」


 よかった、鶏糞や馬糞をぶん投げてる時は見られていないようだ。

 もう少ししたら火薬でヤツの玄関を爆破する予定だ。

 見てろよ、派手にやるからね!


「……いえ、あれは鷹の仕業です」


「孕石殿をこき下ろすような替え歌やら、今様を作るとかも?」


 いや替え歌は歌ってねえよ。

 大通りに段蔵に頼んで、高札を建てただけだ。

 

 はらはでて 

 らんぼうなるや 

 みぐるしき 


 いろぐるいなり 

 しもなるものぞ


 なんてな。

 ちなみに滑稽画のヤツの似顔絵も描いた。

 孕石と読めるように書いてやっただけじゃん。

 怒らないでよ、バッバ。


「知りませぬなあ」


「次は許しませぬぞ?」


 バッバ、しつこいな。

 わしはイラっとした。黙ってるけど。

 チクったのは数正だろう、覚えてろよ。


「与七郎、お前覚えてろよ」


 どうやら口に出たらしい。数正も聞こえたようだ。


「又五郎に大負けしたメンコ勝負の事ですかな?」


 うぐ、とわしは黙るしかない。

 天野は年上との黄門様ご一行と引き換えに力=財力を手にした。

 まさか鉄板漆塗りのメンコったぁ……おみそれしました。


「聞いていますか、竹千代!」

 

 おっと、バッバの機嫌がヤバい。

 寝小便した時みたいにキレられるやもしれん。

 しかし半蔵らが手元に居ればなあ。

 孕石●せるのに。


 あ、青山? 忍者(笑)だったから本多ん家に送り届けた。


 なぜ本多の家ってか? 武芸を鍛えてくれることを期待してだ。

 多分。 

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