第7話 つまり歴史改変が許されるのは小学生まで
天文十六年 尾張国 熱田 加藤屋敷 竹千代居室
アイムアライブ。
無事わしは生存。
さて、この事件だが続きがある。
加藤殿が大殿、つまり織田信秀に謝罪するほどの大事になったからだ。
白昼堂々忍び込んでの犯行だよ?
「何をやってるんだ?」
ってことであろう。
こうして加藤屋敷の防御力が増してチャンチャン……
とはならなかった。
してたまるか馬鹿野郎!
ひっさし振りに命狙われたわ!
と言うか土壇場で柳生の倅のニックネーム出た。
けど、思い出すと家光のオキニやん!
わしと関係うすいやんけ!
早期に手を打たねば。
そうして、わしは数正を自室へ引き込んだ。
「数「システムKAZUMASAです」」
わしは数正を呼び出して事情を確認していた。
最初は、
「何言ってるの竹千代様、コワ」
って態度な数正だったが、何度目かで繋がったようだ。
お前はラジオか。Wi-Fiか。
アンテナはバリバリにしとけよ。
「わし、織田でも今川でも刺客差し向けられた覚えがないんだが!」
「逆ギレされても困ります」
のんきなもんである。
奴はわしに教え諭すように言う。
「だいたいですよ?
過去を替えて歴史を修正しようとするのが既にボケナスです」
「ボケナス」
口悪なあ、おい。
「仮にですよ?
貴方様のご先祖あたりをきっちり北朝方で、源氏にするとしましょう」
「お、おう」
と言うかナチュラルに御先祖様をディスったな。
「となると正しい形で貴方様は存在しません」
「何故?!」
数正はため息をついた。
「普通に考えて没落しますよ。
歴史の一点を修正しても、大きな流れは変わらないのですから」
そうだろうか……? わしは色々と疑問に感じた。
「織田政権が長く続けば、豊臣家が持続してれば、わしも色々考えたが」
わしがそう言うと、数正は嘆息まじりに言う。
「時とは大河の如しです」
「おう?」
「堤で澱めることも、流路を変えることも出来るでしょう」
それは想像できる。
「では、その大河から柄杓で水をすくってですよ?
大河が変わったと言えるでしょうか?」
「変わらん、はずだ」
「そういうことです」
とは言え、わしは逆に疑問に思った。
「それは理解する。
だが逆に、例えば清盛公や頼朝公がいなければと言うこともあるのでは?」
数正は更に大きなため息をついた。
馬鹿にしてんのか、こいつ。
「であれば、別の誰かがやるだけです」
「あり得るか?」
「あり得ますよ」
サクッと奴は話す。
「そうですねえ、源頼朝でなくても関東の誰かがやるとか」
想像はつく。
坂東太郎に住まう武士どもは中央を意識しつつ自立を求めていた。
そりゃ遅かれ早かれやるか……
「尊氏公は?」
カリスマ花丸のアイツこそ、代わりがいない気がするぞ。
「元寇の後の御家人の反乱なかったと言えますか? 別に源氏の惣領でなくともいいでは無いですか」
「ぬう」
数正は言う。
「歴史を本気で改変したいなら、要所で重要人物を始末や抹殺するのだけでは不足です。様々なものが合わさって歴史の大河になる為の、その流路・水源。これを継続的に手入れしなければならんのです」
早口だな、お前。
「と、言うと?」
「大きく言えば、元寇を起こさせない、平家を持続させるとかです」
そう言いつつも、数正は補足する。
「しかしそれは大きく眺めての事。
その大河に利水を寄って生きるのならば、改変は無視はできません。
よって私たちがいるわけです」
我らねえ。
まるで歴史の守護者のような口ぶりだ。
タイムポリスとか言ったら張っ倒そう。
「お前らは歴史を正すものと?」
「近いですが、より正確には改変者を許さない者たちです。
そも、水の流れは天によるもの。それを逆らうのは人の業です。
手を入れ続けなければ、やがて戻っていくでしょう」
なるほど? まるで、わからんぞ?
「と言うか、そもそも時を遡って流れを変えたら、正しき未来はどうなる?」
わしがそう疑問を口にすると、数正は答えた。
「変化し、続くに決まってるじゃないですか。だから直すんです」
「……頭痛くなってきた」
仏法の難しいところの説法。
または興味のない分野の解釈を聞いているようなものだ。
屁理屈じゃねえの、コレ。
「川は何処に流れるのだと思いますか?」
「海か、湖か?」
わしが言うと数正は言う。
「その通りです。時もまた、ほぼ無限に巡ります。
歴史改変は無視してもいいのですがね。困る要素もまたあるのですよ」
わかるような、分からんような。
そこで数正は咳ばらいすると言った。
「そもそも人の身で世界の終わりを考えることほど、生きていくのに無駄なことではありませんか?」
「確かに」
至言である。奴は続けた。
「だからこそ、あなた様は再び天下を取らねばなりませぬ」
断言だ。懇願だ。
簡単に言ってくれると思う。
もう一度、困難な道を行くことにわしは即答できずにいた。
奴は答えを急かすことはせず、話題を変えた。
「とは言え、暗殺対策は面倒ですね」
しばらく考えてから、やつは言う。
「対策としては身辺に気を付けるか、早めに今川に行くかでしょう」
「妥当だが、その心は?」
「怪しいと言ったでしょう? 私も大いに制限された状況ですが、どうやら敵はなりふり構わずなようですし」
なりふり構わず。
わしは顔が引きつるのが分かった。
「歴史安堵の最低限のルールさえ守っているどうか、それすらも疑わしい。
既に方々にこの時代ではありえない形で工作して潜んでいるでしょう」
わしは呻く。
今回も心穏やかに過ごせないらしい。
と言うか歴史を気楽に改変されてたようなもの言いじゃね?
だが、それを口にすると面倒だ。
なので、わしはシンプルに問う。
「対策は?」
「それを考えるのは、貴方様では?」
ド正論である。
ぐうの音すらわしは出せなかった。
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