第6話 ここで理由なき刺客が竹千代を襲う

天文十六年 尾張国 熱田 加藤屋敷 竹千代居室 



 今のわしにやれることは何もない。

 遊ぶか、寝るかしかない童であるし。

 よって気が抜けてたんだろう。

 だから、事件が起きた。 


■■■

 

 あれは真っ昼間だった。

 わしは縁側に腰かけ、小刀で大ぶりの枝を削っていた。

 本当は指物師にやらせたいが、金もないので手慰みである。 


「む」


 なかなか削れぬ。

 ちまちまと削っては形を見る。

 そうして日光に枝をかざしていた時だった。

 影が近づいたかと思うと、そいつは屈んだ。

 わしを看病してくれていた下女だった。


「竹千代様、会いたいと言う使者が」


「わしに?」


 変な話だ。何しに来たのだろうか。


「加藤殿はなんと?」


「それが不在でして」


 ああ、主人不在でか。

 下女も迷ったのだろう。

 子供でも聞いてみるか? となっても変じゃない。

 本当にわしの客なら、だが。

 しかし時期が悪い。わしが工作してるときでなくてもいいのに。


「だったら……おい―――」


 わしは、顔を下女に向け、そこから先の言葉が出そうになかった。

 唐突も唐突だ。

 屋根から飛び降りてくる不審者。

 しかも今まさに、大脇差を抜き放ち振りかぶる男。

 

――足音はしなかった。 ということは……!!


「忍びか!!」


 わしは小刀を投擲。

 すると男は体をひねった。

 しかし流石の体幹だ。ヤツの斬撃が行われる。白刃の閃きの後、遅れて風切り音が鳴り、縁側の板が斬られる。


……あぶねーッ!?


 習ってよかったぜ、リュータン式新陰流ブートキャンプ!

 

 下女が悲鳴を上げ、屋敷に詰めていたゴロツキらが動き出す。


「チッ!」


 忍びはくるりと背を向けると、大脇差を片手に逃げてゆく。

 わしは心臓が激しく脈打つのを自覚した。

 荒く息をしながら、ぶん投げ塀に突き刺さった小刀を見た。 


「助かったか?」


 ハッキリしたことが一つある。

 わし、どうやら今回も誰かからの暗殺対象らしい。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る