第5話 ノッブ? マジでノッブなん?

天文十六年 尾張国 熱田 加藤屋敷 庭



 翌朝である。

 何となく察したが、時期的に今は1547(天文16)年であろう。

 ユーカイされてイチニカゲツ、秋の始まりごろだ。

 我々、人質ズは朝飯を食って稽古して、何するかと言う話になった。

 手習も終わって暇な時間でもある。

 誰に言われるでもなく、我々は庭に集まっていた。

 

「ポコペン!」


 カンチョーの匠である榊原が熱く主張し、何人かが尻を抑えた。


 わかる。超わかる。


 奴の指は細く、思いのほか突き刺さって痛いらしいのだ。

 天野のみ効いてなかったが。

 もう、お前中古だったんだな、わし吃驚。


「稽古はいかがでしょう?」


 天野はそう言った。

 ケツアナほじられてるのに、コイツ爽やかだ。


「元服、初陣とありますので」


 言葉通り、最年長の奴は初陣を意識してるのだろう。

 背伸びしても許される時代だもんな。


「竹千代さまは?」


 おっと今のは誰だ?

 わしはしばらく考え……


「けいどろ」


 そう言った。が、やはり皆に通じない。

 仕方ないので、検非違使と泥棒に分かれて遊ぶのだと説明したら理解された。そして滅茶苦茶けいどろした(正式な呼び名が【けびどろ】になった)。



□□□


 

 悩むことは色々ある。だが遊ぶと気が晴れる。だって体は稚児だもん。

 年齢差があっても(つまり天野が空気を読んだ)、意外と遊びになるし。

 そうして遊んでいると、妙な人物がやって来た。

 若い男だ。

 すらりとして、栗●類みたいな顔と体してやがる。

 無駄にヤバい女に好かれそうな感じだ。


「ほぉ、元気ではないか」


 その男、なんと荒縄を帯代わりにし、着物を着崩していた。

 なんとも傾いた格好だ。DQNかな?

 しかし、どっかで見たことあるような御仁である。雰囲気だけだが。


「三郎さま!」


 背後からすっ飛んできたのは、わしらを預かっている加藤図書。

 と言う事は、これが若き日の織田三郎殿だよなぁ?

 え、こんな顔だっけ。


「よいよい、加藤。例の子を見に来たのよ」


 若き日の織田殿は、こんな顔をしていたのか?

 いやしてない。声も顔も違う。

 なんて、わしが混乱していると三郎殿がこっち見た。

 やべー目で見るなよ。


「その方が松平の?」


「……松平広忠が子、竹千代でござる」


 即座に略式であるが礼をすると、三郎殿は笑った。


「利口そうではないか! フフフ、それも親父がお前を生かす理由かな?」


 わしに興味持たなくてもいいのだ、三郎殿。

 小姓として、わし、三郎殿と行動を共にしたくない。

 天下無双のロリコンと同僚とか死んでも嫌だ。


「のう竹千代、我が父は三河を下す」


 余分なことを考えていたからか?

 三郎殿はポエムを始めた。

 わしは三郎殿の長話を聞く嵌めになりそうだと予感した。

 やべーよ、MCバトルのイベントか?


「さすれば、三河に張り付かせた信広姉上も外れよう」


 ん?


「そなたの父が臣従する日をわしは待ってるぞ」

 

 何か今、わしにとって致命的な見落としがあったのではないか?

 わしはそんな不安を感じていた。


 なのだが……


 三郎殿は自分で言って自分で悦に入ったのか?

 わしに説明せずそのまま去って行った。

 

 取り残された、わし。


 ノッブや、お前が信じられない。


「「「大丈夫ですか、竹千代様」」」


 同じく人質仲間が駆け寄ってくる。

 そんな中、わしは言い難い不安を覚えた。

 信広殿って男の子だよな?

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