第2話 誘拐戦隊マツダイラジャ
天文十六年 尾張国 熱田 加藤屋敷
下女が下がった後、わしは状況を確認することにした。
わしは徳川次郎三郎源朝臣家康である……筈である。
だが自信が持てない。
朧げだが、南蛮の国で暮らしていたような気もする。
また神代か、はたまた何処かの世の日ノ本なのであろうか?
神仙が住まうような場所で過ごしていたような覚えが……ある気もする。
兎に角、妙にミョーに記憶が曖昧なのだ。
一応、字も読めるし話せる。
……なんなら弓馬の勘も失ってないと思う。
だが、記憶が曖昧だ。
嫁や子の名前が思い出せない……とか。
失敗を思い出せない……とか。
おそらく正しく過去の記憶を保持出来て無い気がする。
「やばい」
そうそう、時折口をついて出る言葉も変なのだ。
あと、わしってこんな性格だったっけ?
もっと違う性格だった気がする。
怒りっぽく身内に厳しいとか。
「……しかし、軟禁時代からとは」
悲惨な幼少期を、もう一度か?
そういや、このせいでねじくれた三河者から
『とのさぁ、影武者じゃね?』
って言われる羽目になったんだったか?
でもって嫁と息子をブッコロせざる遠因もここからだった気がする。
「まあよい。そうそう殺されんだろう」
わしは、そう意識を切り替えると今は寝ることにした。
再び夜着を手に取り……固まった。
「ん? んんん?」
これ、綿だよな? なんで綿? この時代に?
今のわし、絹綿を得られるような身分だったか?
木綿だとしても……ん?
「……ええい、下賜品だろう!」
三郎殿の父上は金持ちだった。
その流れだろう。寝よう。
□□□
目が覚めた。
庭で子供用の木刀で庭で稽古してみた。
……ズレなく動く。剣術が、これなら武芸一般は問題なかろう。
ふと見れば、わしの随行員が下女の案内でやって来た。
どうにも、わしの病をうつさぬようにとの配慮と見える。
それでわしは今まで隔離されていたらしい。
「竹千代さま」
そう呼ばれたので、わしはヤツらを見る。
一斉に皆がわしを見てきた。
覚えがあるような、ないような…?
ふと、どいつもこいつも苦みの走り切った顔がオーバーラップする。
いやいや、まだ年若い小姓たちだ。
そのつぶらな瞳らに、思わずわしの権現さまが観音様………しなかった。
「ぬ?」
脳裏に【ショタ・ホモはいけません】と浮かんだが何のことか?
「どうなさいました?」
不安気な声がわしに刺さる。わしは咳払いした。
「では、イカレたメンバーを紹介するぞ。
天野又五郎
数え十歳ちょっと過ぎ?
こいつは親族無視してでも、わしについてきてくれたっけ。
石川与七郎
数え六歳の大人しそうなおぬしだ。
いじめられっ子で、最終的にわしんとこから猿に走った。
松平与一郎
一番歳が低そうなお前じゃ、将来的に信玄坊主の捕虜になる。
菊の花は大丈夫だったかの?
石川七之助
五、六歳くらいか? わしはお前の忠義を知っておる。
榊原平七郎
お前か! 桶狭間といい、世話になった。うん。
次、上田萬五郎
覚えておるとも、良い男じゃ。
最後、阿部徳千代
お前、関ヶ原前に死ぬなよ! 」
わしはそこで、皆が変な目でわしを見ていることに気が付いた。
下女が心底心配そうにわしを見た。
「ええと、竹千代さま……何をおっしゃられてます?」
「……皆の紹介をしようと思ったのだ」
一応そう言い訳をしたが、天野が変な目でわしを見てる。
やめるんだ、何かに目覚めそうになるだろうが。
「竹千代さま、大丈夫ですか?」
石川与七郎…後の石川数正がわしを咎めるような目で見てくる。
おう、なんだ数正、喧嘩うってるのかワレ?
お前に思う所は凄くあるぞ。
「お話がございます。後ほど」
わしは驚きつつも黙った。
当然その後、気まずくなった。が、わしは動じない。
だってわしは、大将軍。こんなことでは動じない。
「と言うわけでだ、冗談だ。皆、ポコペンでもしようでないか」
ルール説明に難儀した。
が、皆でこの後めちゃくちゃポコペンした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます