土曜日。

午前7時。

いつもよりは控えめな音量で携帯電話が朝を告げる。

なんだかよく眠れた気がする。

いつも通りSNSの巡回を終え、布団から出ようとすると夫がもぞもぞ動き出した。

「んん…おはよ」

「おはよ。ごめん起こした?早いからまだ寝られるよ」

「大丈夫。もともと起きようと思ってたから」

「そうなの?」

休みの日なのに朝から活動しようなんてすごいな。

私じゃ考えられない。


2人でリビングに移動して、私は化粧道具を引っぱり出してきて準備を開始する。

夫は後ろのソファで何かしているようだ。

YouTubeを流しながら化粧をする。

うん、嫌いじゃない、この時間。

黙々と化粧を進めていると夫は立ち上がりキッチンへ向かった。


***


午前8時。

さて、やるか。

今日はこのために早起きしたんだ。

ごはんは昨日のうちに予約していたからもう炊けている。

棚から彼女の弁当箱を取り出した。


「なんかいい匂いする~!」

リビングから彼女の無邪気な声が聞こえる。

「もうすぐできるよ」

実はここ数日間練習していた。彼女には言わないけれど。


「「いただきます」」

うん、我ながらよくできた。

ごはんとふわふわのオムレツ、あとはカリカリのベーコン。

ふわふわに仕上げるのが難しかったんだ。

ちらりと彼女の顔を盗み見ると満足そうな顔、何かを噛みしめている顔をしていた。

よかった。

「お弁当もできてるからね」

「!?」

食事に夢中だった彼女が目を見開いてこちらを見ている。

そして箸を置いて右手を差し出してきた。

よくわからないけど、同じく右手を差し出すと固く握手された。

そして、咀嚼が終わった彼女がひと言。

「ありがとう!」

「どういたしまして」

そこにあるのは俺のだいすきな彼女の満面の笑みだった。


***


午後1時。

仕事がひと段落した。

ロッカールームからお弁当を持ってくる。

土曜日は比較的忙しい日で、お昼休憩がある日。

上司と机を並べて、一緒にお昼ごはんを食べる。

上司と言ってもそれは仕事中のみで、それ以外は少し歳の離れた女友だちのような存在だ。

こうやって話しながらお昼ごはんを食べる時間が結構すきだったりする。


さて、夫が作ってくれたお弁当はどんなだろうか。

わくわくしながらお弁当箱を開けた。

「あれ、結衣ちゃんのお弁当いつもと感じ違うね?」

「そうなんです。今日は夫が作ってくれて」

「いい旦那さんじゃん。それで今日ご機嫌だったわけね」

バレてる。そう、私は顔に出やすいのだ。

「まあ…。平井さんの旦那さんもめちゃくちゃ優しいじゃないですか」

そんな話をしながらお弁当を食べる。

少し茶色が目立つお弁当ではあるけど、茶色いものは大抵おいしい。

夫の思いやりを嚙みしめながら食べる。

うん、いつもよりおいしい。この後も頑張れそうだ。


***


午後11時。

「今日は本当にありがとう!朝ごはんもお弁当もおいしかったし、何より私のこと思ってくれる悠介の気持ちがうれしかったよ」

「どういたしまして。そんなの俺だってそうだよ。毎日、結衣の気遣いに助けられてる」

「相思相愛ってこと?」

「ことかもですねえ」


「俺、何気に土曜日すきなんだよね」

「どうして?」

「結衣がいつも以上にたくさん話してくれるから」

「私いつもめちゃくちゃ喋ってるよ?」

「結衣、うれしかったことでも悲しかったことでもなんでも話してくれるでしょ?土曜日は特にボリューミーだからさ、それがうれしいんだよね」

「ほう」


「今日忙しかったんだから明日はゆっくり寝な?」

「うん。アラームなしで寝る!」

「それがいいね」

「おやすみなさい」

「うん、おやすみ」


***


私が私らしくいられるのはあなたのおかげなんだよ。ありがとう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る