俺のことが好きな俺の好きな人

 神谷のシュートを飛びながら弾き、背中から落ちて正直痛かったが、こぼれ球を拾いに行く。だが相手の一人が先に落下地点に入ってヘディングし、ボールが俺の上を通る。まずい、俺の背後には...


「もう一点!」


 冷静にトラップし、神谷が点を決める。


「あと一点で満足なのかよ」

「とりあえずって意味だよ!」


 神谷が早く初めろとキックオフの位置にボールを置く。


 青野が俺にボールを出すと、何と四人で取りに来た。残りの一人は青野に着いてる。一旦後ろに....いや!


「諸刃過ぎねえか!」

「知ってたよ!ここで守りに行かないやつだって!」


 俺は後ろに出す振りをして澤野にノールックでパスを送る。だが、


「マジかよ」


 いつの間にかキーパーが飛び出し、前に蹴りだした。さっきと全く同じように神谷がゴールを決める。


「もう一点!」

「こっちのセリフだよ」


 完全にやられた。俺が下げないのを見越すのはまだ良いとして、ノールックパスまで見破られていたとは...賭けにでやがったなこいつも


 今度のキックオフは無理なプレスに来ない。こちらも堅実にボールを運ぶ。シュートまでは行ったがキーパーに阻まれる。


 お互い決定機を作ったがなかなか点が入らない。もう時間が無い!チラリと審判をみると、手に持ったストップウォッチを観ながら、電子ホイッスルを持つ手を上にあげる所だ。


「引き分けで終われるか!」


 俺はかなり後ろだったし、神谷にコースは切られていたが、無理矢理カーブをかけたシュートを放つ。それとほぼ同時に笛の音が鳴る。


 体育祭のサッカーが終わった。







「ごめん西野さん、勝てなかったや」


 体育祭の次の日、俺は西野さんに呼び出されていた。これは後日解ったことだが、俺達A組は体育祭優勝クラスと一点差だったらしい。つまりあれを決めていたら俺達は優勝だった。


「何で謝るの...ていうか下馬評ではあなた達最弱だったんだから、一勝1分けは充分過ぎるわよ」


 最後のシュートは、ポストだった。かなり良いシュートではあったが...


「ていうかさ...」


 西野さんは、何かを思い出しながら怒る。


「得点王インタビュー!」


 俺は見事7得点で得点王を獲得。その後のインタビューでC組戦の2得点目、指を指していたように見えたが、誰に向けたものなのかと聞かれた。


「正直に"好きな人に向けたものです"と答えただけなのに...」

「何でその後名前まで言っちゃうのよ!」


 それもズバリ誰でしょう?と聞かれたから何だよね...


「でもさ、シチュエーションとしては最高だったでしょ?」

「...フィクションならね」


 あの時名前を言ったら、インタビューしてた人が余計な気を回して、西野さんもカメラ前に呼んでしまったのだ。俺は悪くない!


「俺もまさか衆人環視の状態で告ることになるなんて思わなかったよ...」


 いくとこまでいったので告白し直すしか無かった。彼女には悪いけれど...


「今日呼んだのもその事だよね」

「...うん。昨日のインタビューでも言ったけれど、"場に流された"みたくなるのは嫌なの」


 西野さんは深呼吸して、昨日の...あの花火大会の答えを俺に告げた。


「私はあなたが好き。好きにさせて見なさいとは言った矢先、すぐ好きになるのは癪だったから、あなたに冷たい態度とって見ないことにして逃げていた。」


「けれど、自分から逃げられなかった!もうあなたを好きになっちゃったの!

あなたはまだ私を好きで居てくれてる?」


 彼女は顔を赤くしたり、モジモジしたりなんかしない。真っ直ぐこちらを見て微笑みながらそう告げた。俺の答え?そんなの決まってる。


「俺の気持ちが変わってると思う?」

「知ってる。あなた私のこと大好きだもんね」

「うん、大好きだよ。君のためならどんなこともやってあげたくなるよ」

「何それ...」


 俺のくさいセリフに二人で笑った。


「俺、この数ヶ月間頑張ってよかったよ。これから一緒にこういう何でもない日を一緒に居られるんだもん」

「そうね。私もあなたに好きになってもらえて幸せ」


 今度は笑わなかった。二人で遠くを見ている。付き合うまでは長かった。でも、それの何倍、何十倍...もはやずっと一緒に居たい。


 少なくとも俺は、そう思う。

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俺のことが嫌いな俺の好きな人 ハンバーグ @bargarkun

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