押して駄目なら

 思いの外神谷が上手い。ぶっちゃけかませかと思ってたんだがな...流石はクラブ所属というべきか


「青野!」


 俺からキックオフを初め、青野に出す。俺が真っ直ぐダッシュすると、敵味方の注目が集まる。


「風岡は二人でマークしろ!ボールがいったら囲むぞ!」


 だが、俺の狙いはとりあえず貰うことではない。俺を一瞬みて青野から注意が削がれたディフェンスを、青野が抜き去る。


「澤野!」


 俺は叫び、手で行って欲しい位置を指示する。澤野がディフェンスを単純なスピードではがす。二人は俺にくっついているので、もう澤野に着くやつは居ない。


 青野がクロスをあげる。もちろん澤野へ


「おい!澤野フリーだぞ!」


 キーパーが叫ぶと何故か皆一斉に澤野やボールへ向かってく。


「あ、やべ」


 ヘディングが上手く当たらず澤野が反らすような形になる。


「いや、ナイス」


 少しずれたが俺がジャンピングボレーをかました。


「しゃあ!」

「お前カッコよ過ぎだろ!」

『キャー!!!』

 やっべ気持ちよ過ぎる!ふと観客の方をみると、西野さんと目が合った。俺が笑顔で西野さんへ指を指す。俺は彼女にゴールを捧げた。


「え?誰誰!?」

「誰か友達いたの?」

「皆に対してかな」

「いやわたしでしょ!」


 外野がざわめく。西野さんは...どういう表情かおなんだ...それ


 あまり気にしすぎないようにしてゴールを決めさせまいと必死にディフェンスした。もう一点ぐらい決めたかったけれど、相手の猛攻が続き、時にスライディングやタックルをしてとりあえず前半を守りきり、後半へ。もう既に砂だらけになっちまった。



 冬馬がなんかカッコよくゴール決めた瞬間、不覚にもキュンと...はこなかった。凄いとはおもったけれど...


「ねえねえ梨乃、あれって梨乃に向けてだよね?」

「あはは...そうかもね」


 でも、おそらくこちらに向けて指を指して来たとき、まるで"私のために頑張った"とでも言わんばかりの目をしていた。


 それには思わずキュンと来た。その後何度も守備で貢献し、砂だらけになっている。本気で勝つつもりで。私のために勝つとか言ってたけれど、今の彼の瞳に私は写っていない。頭の中も今やっているサッカーのことだけだろう。


 なんか...その1つのことに集中している真剣な顔が...目の前の勝負に何としてでも勝つと語っているその目が...そのために必死に仲間にも声かけしている姿勢が...


「...カッコいいなあ」

「え?今なんて?」

「...何でもない」


 隣にいるあやがニヤニヤしている。たぶん聞かれたよなあ。


 あやのからかいを交わしていると、後半が始まった。


「やっぱり冬馬めっちゃ上手いね」


 ドリブルで相手陣地に侵入し、ゴール近くまでいくが、神谷が魂のスライディング。Aボールのコーナーに。


「青野が蹴るんだ」

「あれ?全員入ってない?勝ってるのに」


 あやが言ったように、青野が蹴るのにも驚いたが、一点差で勝っているのに危険を犯して全員で攻めに転ずるのは果たして正解なのだろうか?


「チャンスだぞ!必ず前に蹴りだせ!神谷に繋ぐぞ!」


 神谷は前線に残る。青野がゆっくり助走をとり、ボールに近づくタイミングで一斉に動いた。


「え?」


 その"皆"に冬馬は含まれて無い。一人だけバックステップを踏み、フリーに。青野は冬馬へゴロのパス。


「何だよ今の!」

「てかあいつ大会7得点かよ!」


 ディフェンスが気付いた頃には冬馬はシュートを放ち、点を決めていた。


「何故、攻めた」


 神谷は冬馬に問う。


「俺は相手に響くまで押し続けるって決めたから」


  彼は答えに成ってるようななっていないようなことをいい、再び神谷のドリブルからスタート。スピードに乗りつつも、テクニックがあるドリブルでどんどん抜いて行く。


 キーパーと一対一に。キーパーが前に出た瞬間にループ。ボールを見ていた皆が点を決められた考える。でも、もう一人しか見えて無かった私には解っていた。


「ねえ、あや」

「うわ!冬馬すご!絶対入ったと思ったわ...」

「あ、ごめん。何?」


 私はあやの方を見ずに、ただ一人を...ジャンプして神谷のシュートを弾いた彼を観ながら告げた。


「私、好きな人が出来た」

「そう...その人はどうやってあやの硬い守備からゴールを奪ったんだろうね」

「うーん...そうだな、押して駄目でも押してみる感じ?」


 冬馬はまたボールに向かって駆け出した。

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