何者

「で、勝てそうなの?」


 私は冬馬に聞く。次に当たるC組はサッカーなら学年最強と言われてるのは何度か聞いている。対してA組は下馬評では最弱だとか言われていた。


「うーん...結局Cがどれくらい強いのか知らないんだよね」

「大丈夫なの?それ」

「まあでも...」


 彼は少し前に行き、顔だけこちらへ向け宣言する。


「西野さんが見てるんだ。絶対勝つよ」

「...そう」

「おやおや、ずいぶんカッコいいことをいうじゃないか!風岡冬馬」


 彼は...女子人気が高いで有名な神谷君。身長が高く、クラブでサッカーをやっているとかで運動神経がかなりいいらしい。


「えっと?誰?」

敵情視察スカウティングもろくにしないなんて...ずいぶんと余裕だな」

「彼は確か神谷君よ。C組だったような...」

「そうなんだ。まあ別に誰がいようが勝つけどね」


 神谷君が明らかにイライラした様子をみせる。


「俺はクラブでやっている。この辺でサッカーしているやつなら聞いたことあるだろ」


 そう言い、彼はクラブ名を伝えた。

「えぇ...ちょっと知らないなあ。俺別にサッカー部入ってるわけでは無いんだよ。中学まではやっていたけれど」

「...現役でないのにあそこまでの動きを出来るとは驚きだよ」

「あ、お前試合見に来てたな。思い出したよ」

「後半からだがね。僕はさっきの試合で三得点決めたが、得点王取るとか言ってた君は何点だっけ?」


 私達の間に沈黙が流れる。冬馬はポカンとし、私は思い切り唇を噛んでいた


「え、四点だけど?」

「女子の前だからって嘘は良くないぞ。二点だろ?」

「"後半は"ね」


 私は我慢できず笑い出してしまう。


「こういうので負けてるパターンって珍しいよね」

「それ!我慢しようとしたけれど、耐えきれなかった!」


 こんなに笑ったのは久しぶり。神谷君って意外と抜けてるのかな?


「...まあいい!君のチームの特性は見切ったよ。Dのようにいかないと思っておけよ?」


 冬馬が神谷君の横を通り過ぎようとする時に、神谷君の肩を叩いた。


「三点も凄いぞ」

「...」


 私も横を通るときに一言。


「試合もうすぐ始まるから、遅れないようにね」


 そのままグラウンドに向かった。少し離れたところで二人で声を出し笑いあった。


「なんなんだよあいつ、油断させに来たのかよ」

「面白い人だったね」



 それからちょっとして試合が始まる。前半は相手ボール。キックオフと同時に冬馬、澤野、青野がダッシュ。


「何だこいつら」

「俺らのボールは俺の物、お前らのボールは俺の物」

「おい、"俺ら"だろ」


 澤野が相手のボールを蹴り、転がったところを冬馬が拾う。


「ラッキー!」

「おい!止めろ!」


 さっき会った神谷が叫ぶが、詰めに来る前にシュートを放ち、当たり前のようにゴールを決める。


「今の普通ディフェンスの股狙うか?お前何者だよ」

「風岡冬馬だ。覚えとけ!」


 再び相手のキックオフでスタート。だが、先程と違いボールの近くに二人いる。


「小細工してもすぐとってやるよ!」

「やれるもんならやってみろ!」


 ボールを貰った神谷に澤野が詰めるがあっさり交わされる。そのつぎに行った青野はついていくディフェンスをするがやはり交わされる。


「逃げないんだな」

「俺の方が上手いからな」


 冬馬がディフェンスに来ても逃げずに真っ向勝負。取れそうで取れないのが続き、数十秒一対一が続く。そこに澤野が突っ込んできた。


「邪魔!」

「あ、すまん」


 澤野で冬馬を隠すようにしながら二人まとめて交わす。


 誰もがそのままゴールを決めると思ったその時、辻が横に飛んだ。


「いってぇ...」


 ボールは顔面にぶつかり、サイドへ流れる。


「まだ出てねえ!」

「知ってるよ!」


 再び冬馬と神谷のマッチアップだが、神谷がゴールを観ながら先にボールを触り、無理な体勢でそのままシュートを打つ。


「うっそー...お前何者だよ」

「神谷廉、だ!覚えとけ!」


 ボールは一見枠外に飛んだかと思われたが、バックスピンがかかりファーのサイドネットを揺らした。


「あ、あと君、ごめんな。大丈夫か?」

「大...丈夫。」


 意外と神谷は良い奴なのかもしれない。今日一番の盛り上がりを見せるグラウンドの歓声を聴きながら、そう思った。

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