球技大会といえば?
「ねぇ冬馬~」
「どした?」
待ちに待った球技大会当日、少し涼しいぐらいの気候でスポーツ日和。家に居てもそわそわしてしまい、少し早めに学校へ来た俺は、好きなサッカー選手のプレー集を見ていたら、あやに話しかけられた。
「ちょっとついて来て」
「え、まあ良いけど」
着いてきてと言われたから、何となく少し距離あるところまで連れてかれるのかと思っていたけれど、廊下の鏡が有るとこで彼女は止まる。そこにいたこちらに背を向けている女性には見覚えが...物凄くあった。
「見てみて!可愛くない?」
「...」
あやの声にあわせてこちらを向いたのは、やはり西野さん。そして目を見開いた。釘付けになった。いつもは真っ直ぐ伸ばしているミディアムのさらさらな黒髪だが、今日はウェーブがかかったハーフツイン。
「...ちょっと狙い過ぎかな?」
西野さんが上目遣いで恥ずかしそうに言う。そんなわけ無いだろ...
「なあ、あや」
「はいはい」
「この髪型って西野さんのために作られたらしいよ」
「知ってる。似合い過ぎだよね」
「そんなわけ無いでしょ!」
いつもの西野さんが返ってきてしまった。照れてる西野さんも可愛くて、新鮮だったからもう少しみたかったなあ...
「冬馬、サッカー頑張ってね」
「見に行くからね~」
「任せろ。絶対勝つから」
サッカーは第一試合なので、今やってる始まりの言葉や諸注意が終わったらすぐに始まる。ちなみにスクリーンに写して各クラスで見るというシステム。サッカーの話に入ったのでちゃんと聞こう。
「サッカーは6人制で、登録メンバーは8名。欠席等で人が足らなくなった場合に限り、メンバーの補充を認めます。その場合は1試合目が始まる前に、本部へ届け出を出してください。オフサイド無しです。あまりに悪質な行為があった場合、レッドカードも出すので気を付けてください」
「あ、そうそうサッカーと言えばあの人ですよね」
何故か急に話が変わったんだが...何か嫌な予感がする。そして画面が移り変わる。
「えー、今、生徒棟3階に来ております」
生徒棟というのは主に教室がある棟のこと。ちなみに実験室や音楽室等がある棟を特別棟と呼んでいる。
実況?の人が階段を上り、右に曲がった。おいおい、そっちにはA組とB組しかねえぞ!
「A組前にやって来ました。やはり昨年5ゴールを決め得点王、そしてインタビューにてサッカー部をこれまでかと煽ったあの男に話を聞かなくては!出てきてください、風岡冬馬さん!」
うわー...せめて事前に言ってくれよ...
「風岡さん、第一試合にD組と対戦だそうですが、意気込みをお聞かせください」
「そうですね...僕のクラスはサッカー経験者が僕しか居ない状況です。なので、調度良いハンデになるかなと思います」
言ってしまった...だが仕方ない。煽り厨みたいな紹介されて真面目な奴が出てきたら白けてしまう...せっかくの球技大会で序盤から盛り下げる訳にはいくまいし...
「流石ですね。私の調査ですと、あなたが対戦されるC組とD組はサッカー部及びサッカー経験者が多いらしく、学年でも屈指の強さです。何か対策などはされているのでしょうか?」
「いえ、相手に合わせてこういう戦術を、というのは考えていません。そもそも初心者の多いチームなので、高度な戦術は取れませんしね」
「なるほど、調べる必要も無ければ対策する意味も無いと!」
...そんなキラキラした目で見ないでくれよ...物は言い様ってこういう事を言うんだな...
「まあ早い話そういうことですね。あ、そういえば得点王のインタビューって今年もやるんですよね?」
「ええ、もちろん」
「あなたが担当ですか?」
「はい、そうなっております。それが何か?」
「じゃあまた後で会うことになりますね」
一瞬の間が空き、クラスや隣のクラス等から爆笑された。
「風岡選手、まさかの得点王宣言!これはどうなるか見物です!」
ありがとうございました、と言われインタビューがやっと終わった。クラスに戻ると皆が大騒ぎ。
「冬馬やりやがった!」
「冬馬!お前最高だな!」
「あれだけ啖呵きったんだから、絶対勝てよ!」
「あ...終わった」
「おいおい、俺らまで巻き込むなよ...」
サッカーに出ない人からは爆笑され、出る人からは何してくれてんの?みたいな視線を送られる。
「うるせえ!あんな紹介されちゃったらもう引くに引けなかったんだよ!」
「...辻ごめんて...顔あげてくれよ...」
あーもう!こうなったら得点王取らなきゃ俺死ぬじゃねえか!
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