私だって
「あっという間だったね~」
「それな、壊すときの虚しさ凄かった...」
「中村の後ろから追いかけてくるやつ、知ってたはずなのに怖かった!」
俺達は文化祭後にちょっと離れたとこのお好み焼きの店に来ている。ここはクラスメイトの1人の親がやっているとこらしく、誘ってくれたのでお言葉に甘えてここで打ち上げすることに。
「打ち上げするなら全員でやりたかったよね~」
「あや...それは無理だろう」
「辻達何かうちらのこと毛嫌いしてそうだもんね」
辻達というのは、まあ所謂陰キャ側の人だ。いつも四人組でいる。一応誘ったがいかないと言われた。
「まあなんにせよ、トラブル無くて良かったよ。二週間後の体育祭頑張ろう!」
「おー!」
「文化祭で最優秀賞取れなかったし、体育祭は優勝したいね」
現実をみちゃってる俺は、それがかなり難しいことを知っている。なぜ難しいのか、それは
「男子のサッカー部居ないのがキツいよね...」
「ソフトは俺、正也、
体育祭というか、球技大会のようなものなのだが、男子はサッカーとソフトボール。女子はバレーと卓球にそれぞれ半分に別れる。各競技2試合ずつやって、勝ったら6、引き分けで3、負けたら0ポイントというシステム。
「サッカーは冬馬いるじゃん」
「あの伝説のインタビューは今思い出しても笑える」
「あったあった"本当に五点で得点王なんですか?"だっけ?サッカー部キレてたぞ」
「そのあとの"ま、まあ守備頑張ってたんですよね..."の芸術点高い。じゃあお前とたたかった2クラスのサッカー部はどうなんだよってなるからな」
サッカーだと得点王が、ソフトだとホームラン(ラインが引いてあり、そこより先だとホームランに)数が一番多い人が表彰される。もちろんバレーや卓球も表彰がある。
俺はその表彰でそんなつもりは無かったのだが、ナチュラルに煽ってしまった。
「悪気は無かったんだ...だってあれいきなりカメラ持った人がクラスに来て、インタビューしてくんじゃん?事前に準備出来ないからテンパっちゃってさ...」
そこから俺を中心に弄られ、皆で笑いあって楽しんだ。
「冬馬、ちょっと良い?」
「え、うん」
トイレから出ると、西野さんがいた。少し夜風にあたりたいと言うので外へ。
明らかに話がある雰囲気だったので、何かしら話しかけてくれるもんだと思っていたけれど、全然始まらない。
「西野さんは体育祭優勝したい?」
「そりゃもちろん」
「じゃあサッカーは俺が勝たせる」
「え、でも難しいんじゃないの?」
「まあ運動神経いい人少し位は来るでしょ。それなら何とかなる。たぶん」
それに...
「頑張りたいんだ。君が喜んでくれるっていうなら、どんなに難しいことでも」
「カジノの三本勝負。覚えてる?」
「もちろん。俺に出来ることならやるよ」「じゃあ...」
何かを決意したような、だけど少し寂しそうな瞳で言う。
「私のこと、諦めて」
「それは出来ないことだよ」
少なくとも今は。絶対に出来ない。
「...私はあなたを好きにならないよ」
「好きにさせろって言ったのそっちでしょ」
「いつもきつく当たってる...心の中じゃもっとひどいこと考えてる」
「どうでも良い。多少汚れてても、俺はそれを"綺麗な模様"だと言い張る」
「私...あなたの想像以上にめんどくさいわよ
?」
「それはそれでありだな」
「私は...あなたが嫌い」
「俺は君が好き」
「あなたをみていると、自分の小ささが透けてみえて...嫌い」
何だろう...彼女は何かに怯えているように見える。声が...身体が震えている。
「そんなこと言われても、嫌いになんかならないよ?」
「私は怖いの...好意を寄せられるのが...誰かにとって"特別"になるのが..."理想"になるのが」
「...」
「あなたにとって私はなに?」
「好きな人」
「私はあなたが好きで居てくれる自分が崩れるのが怖い。あなたは自分の内面に、醜いところに....目を向けてくれる私が好きといった。あなたを好きにならない私を好きといった...でも、このままだと私は...」
彼女の目からはとっくに涙が溢れていた。擦っても擦っても涙が出てくる。
「私はあなたのことを...好きになってしまいそうなの!私がどんなに悪態をついても私を一途に思い続けてくれているあなたを...どんどん変わっていくあなたを...好きになってしまうかもしれないの!」
「私は...私も、あなたを好きになるような、普通の女の子何だよ?それでも好きで居てくれるの?」
どうして...どうして考えなかったんだろう。彼女が自分を好きになったその後を...そもそも好きになる可能性が有ると言うことを...
俺が答えを出せずに、困惑していると、先に戻るねと言って帰っていった。
どんどん遠くなるその背中を、追いかけることは出来なかった。
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