君には言えないこの苦しみ

「黒瀬、交代の時間だ」

「了解。頑張ってな」

「お疲れ様~」


 俺達は当番の時間になったので、クラスに戻って来た。何だが西野さんが不機嫌だな...どうしよう


「西野さん」

「なに?」

「何でそんな不機嫌なの?」

「不機嫌...というか気にくわないのよ。あなたと仲良いみたく思われるのが」


 今更かとも思うが、確かに俺の名前を呼ぶことも、文化祭デートも半ば無理矢理やらされているコトなので仕方がない。


「でもデートなら花火大会でもしたじゃん」

「あれは遠いところに行ったから、知り合いに会うリスクほぼ無かったじゃん」


 なるほど...


「夏祭りの時、顔だけは良いから気分良いって言ってたけれど、知人だらけなら気分悪いが勝つのか」

「まあ正直今は冬馬のこと普通ぐらいにはなってるんだけれど、好きじゃ無い人と公認カップルみたく成ってるのが嫌なの」


 確かにそれは腹立つ。だが抑えようが無いからどうしようもない。


「"カップルみたく"が駄目なら...」

「うるさい」

「はい」

続きは言わせてくれなかった。


 受付をしてから10分くらいで一回呼び込みすることになった。


「あの」


 看板持って2-Aお化け屋敷やってまーすとか言いながら歩き回っていると、二人組の一般のお客さんに話しかけられた。


「はい?」

「お兄さんのクラスは何やってるんですか?」

「お化け屋敷ですよ」


 見たらわかる。いや、聞いてたらわかると思うんだが...


「案内してください!」

「はあ...」


 そこまで複雑な構造では無いし、A組だから解りやすい位置にあるのに...でも、蔑ろにするわけにはいかず、案内した。


「今の娘達知り合い?」

「いや全然」

「逆ナンってやつ?」

「え、何妬いてるの?嬉しいな」

「違うわよ!」

「正妻の余裕ってやつか」

「だから違うって!...あなたなら引く手数多なのだから、私に固執してないで誰かと付き合っても良いんじゃないのって思ったのよ」


 俺が西野さんを好きなのは当然バレている。だが全くなびいてくれないので、脈が無いことも解っている。だから好きにさせるのは難しいだろう。でも


「俺は西野さんが良いんだ。西野さんだから好きになったんだよ」

「...そ」


 手で早よ行けみたいなジェスチャーされたので、この場をさった。


「諦められたら楽なのかもな...」


 ポツリと呟いた言葉は、周囲の人の笑い声にかきけされた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る