お似合いですね

 ついに文化祭は前日になった。何か黒いビニールと赤絵の具が足らないらしいので西野さんと二人で買い出しに来ている。西野さんと二人で!


「冬馬最近何かちょっとキャラ変わった?」

「うーん...もしそうなら、好きな人の好きな人に成りたくて自分を変えようとするのは普通じゃない?」


 あんまり意識はしていないのだが、他人から見ると全然違うらしい。


「うざさに磨きがかかった。名前呼びにさせるときとか凄くうざかった」

「ひどい...あれほぼあやのおかげなのに」

「おかげって言っちゃってるじゃん」


 ちなみに西野さんのことは名前で呼ばせてはくれないらしい。ちょっと特別感でるから呼びたくはあるが、呼ばれるだけで何か嬉しい。


「周りからカップリングされてるのはどうしてなの?私からは別に何もしてないのに」

「それは俺も知らん。最近話すようになったから?」


 新学期になってから本人に許可を得たので、結構自分から話しかけるようになった。それが原因なのかは知らないが、文化祭準備期間で"じゃあ梨乃と冬馬でやっておいて"みたいなこと言われたり、二人で話してると周りの視線が変わったりするのだ...


「まああなたにガチ恋してる人は仲良い人の中だと居なさそうだから、とりあえずいいや」

「居たとしても俺の目には西野さんしか写って無いけどね」

「はいはい」


 最近こういうのの対応が雑になってきてる。全く照れてくれない。


「赤い絵の具と黒いビニールよね」

「そうだね。どちらもそんな多くなくて良いらしい」


 追加で来てた連絡を読み上げる。


「この一週間でここに二人で来るのも何度目よ...」

「4回目だね」


 もう絵の具の場所も黒ビニールの場所も解っている。だからスムーズに買い出しを終え、店を出た。


「文化祭楽しみだね」

「そうね」

「準備も楽しかったね」

「あなたさえ居なければね」

「流石にヒドイよ」


 わりと迷惑をかけているのかもしれないという自覚は有るので、今のが冗談と言い切れなくて辛い。





「お帰り~」


 教室に着くと、ギャル娘ことあやが労いの言葉をくれた。


「あれ冬馬さん、梨乃の手をさりげなく握るくらいの勇気は出さなかったんですか?」

「身体目的だと思われたく無いからな」


 あやのダル絡みを華麗にかわすと周りの人に笑われた。





 そして二時間後、時刻は17:20分。



「出来たーーー!!」



 数人が叫んだ。


「いやー、案外ギリギリになっちゃったね。皆で最優秀賞取ろう!」

「大変だったー...でも楽しかった!明日明後日も頑張ろうね」

「腕いてぇ...あとずっと高所のビニール貼ってたからふくらはぎも痛い」


 それぞれが要するに"頑張ったね"をそれぞれの語彙力で表現した。


「なあ、大事なこと忘れてるぞ」

「何?打ち上げなら中村の親の店を予約してあるよ」

「いやいや、当日の役割決めてないでしょ」

「あ...」


 まじで忘れてたのかよ...


「どうする?冬馬何か良い決め方無い?」

「俺は西野さんと同じなら何でも良いよ」


 え...冗談のつもりで言ったのに、空気が凍った。この場にいた全員が俺と西野さんを見る。


「えっと...二人ってやっぱり付き合ってるんだね。めっちゃお似合い!」

「そんなんじゃない!」


 西野さんの声が学校中に響いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る