本当の気持ち

「いやー、面白かったな。最初に死んだと思ったあのキャラがまさかクライマックスに出てくるとわな」

「そうだな、思い返してみれば伏線もいくつかあったな」


 俺は西野さんに振られてから何もするきが起きず、一週間程ボーッとしていたら突然同じ図書委員の谷から連絡があり、映画に行くこととなった。


「昼食いに行こうぜ!近くに上手いラーメン屋があるんだ」

「何系?」

「九州ラーメン」


 俺達はハイタッチして、そのラーメン屋に向かった。ハイタッチしたのはラーメンの好みがあったからだ...と思う。


「お前って何か掴めないよなあ」

「えーどういうこと?」

「うーん...まあ解りやすく言うとマイペースだよなってこと」


 こいつは鋭いところもあるが、物理的に掴めない雲のようにふわふわしている。


「風岡は考えすぎなんだよ。俺くらい自由気ままに生きてるとだいぶ楽だぜ?」

「似たようなことを高田さんにも言われたなあ」


 彼女には以前、"その生き方辛くない?"とか"友達は少なくても良いと考えるようになってから楽になった"だの言われた。言いたいことは谷も同じだろう。


「俺の前でくらいは楽にしてても良いんだぜ。何なら楽にしてやろうか?」

「じゃあお前には気を使わないようにするよ。あと急に殺そうとしないでくれ」


 ラーメン屋に着いた。あまりお腹が空いてなくても、豚骨の独特な香りを嗅ぐとお腹が空くのは不思議だ。


「俺これを臭いと言う人とは付き合えないな~」

「いや俺も好きだけどさ、臭くは有るだろ」

「何食べよう。やっぱり普通のラーメンと餃子かな」


 この店のメニューは

らーめん、味噌らーめんの2つとトッピングがいくつかという非常にシンプルなラインナップだ。


「メニュー数が少ないラーメン屋って大抵上手いよな」

「めっちゃわかる。シンプルイズザベスト!」


 結局お互い同じのらーめんと餃子を注文した。


「なあ、相談...というか話を聞いて欲しいんだ。聞いてくれるだけで良いから」

「恋愛相談以外なら良いぜ!」

「...」

「やっぱり?」


 自分で言うのも何だが、今日1日俺のテンションは低かったと思う。取り繕ってはいたけれど...


「冗談だよ。何でも話せ!友達だからな!」

「谷...お前ほんとに良いやつだな」


 俺は西野さんとのデートのことを1から10まで全て話した。


「何か難しいな。つまり音楽性の違いってこと?」

「あながち間違っては無いな...」


 西野さんは俺に本気になれと言った。でも俺には出来ない。


「話がみえてこないんだけど、結局何で振られたの?」

「え?告白に対しての返事は確かにされてないけれど、話の流れ的に俺がすでに諦めてる感じが気に食わなかったんじゃね」

「あー、それはわかってるんだけれど...だとしたらおかしくない?って思ってさ」


 話が見えてこないはこちらのセリフだ。何が言いたいのだろうか。


「俺が言いたいのは、告白して実質振られたからすげー落ち込んでるとことか、失言して後悔したり、もう終わりだからせめて気持ちを伝えたいと勇気を振り絞って告白したというのを聞いた限り思うんだけど...」


 俺と目を合わせて谷は言った。「お前は西野さんのことを"本気で"好きだったし、最初から...いや今も諦めてなんか無かったんじゃねーの?」


 俺は西野さんと出会ってかららしくないことばかりしていた。平静の俺なら好きになってから話しかけすらしなかっただろう。どうせ俺には...と卑屈になってた。


「諦めたく...無かった。手を握って離したくない。そう思ってしまった」

「そっか」

「俺も...俺なんかが西野さんみたいな人を好きになってもいいのかな?」

「西野さんは神か何かかよ。神だったとしても俺は応援するけどな」


 頼んだラーメンが同時に来た。


「食おうぜ」


「そうだな」


 ラーメンをすすった。豚骨の独特の香りが鼻を抜けた。


「やっぱり好きだわ」


何に対してかは言うまでも無いだろう。

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