私のことが好きな私の嫌いな人

━━俺だってしたくて恋をしたんじゃない!


 そう言われて私は、彼が全てを諦めてしまっているんだなということを察してしまった。


 風岡のことは嫌いでは無い。それは何度か考えたから間違い無い。でも考え方が嫌い。生き方が嫌い。あの"こういう人が好きなんだろ?"とでも言いたげな目が、態度が気にくわない。


 普段の会話だったり、今日のデートだって普通に楽しかった。女子特有の"空気を読む"をせずに自然体でいられるのはとても楽だから一緒にいることに対する嫌悪感はない。でも時々私の嫌いな風岡が出てくる。


「綺麗だな...」


 彼と見る予定だった花火を見上げる。様々な色を出して光るそれは美しい。


 急に電話がかかってきた。相手は図書委員で同じに成ってから特に仲良くなった高田音羽。すぐに電話にでる。


「もしもし?今大丈夫?」

「大丈夫だよ。それでどうしたの?」

「...外にいるの?」


 まあ流石にこの喧騒や花火の音はごまかせないよね。


「うん、友達と来てたんだけどはぐれちゃったんだよね。」

「...嘘。」

 一瞬で見抜かれてドキッとした。上手く交わせないだろうか。


「私は誰よりも...っていうのは言い過ぎだけど、とてつもない数の嘘を付いてきたからなんとなく解るんだ。良かったら聞かせて?何かあったの?」


 私は諦めてあったことを全て話した。音羽は最後まで無言で話を聞いた。


「あーそれは風岡が悪いわ~...私だったらそんな思いにさせないのに。」

「今結構シリアスな展開だったじゃん...」 


 でもなんか少し笑って楽になった。誰かに話せたってことも大きいのかな。


「風岡と私はちょっと似てるとこあるからさ。それでも梨乃にそんな気持ちにさせないけどね。」


 正確には"似てた"かなと付け足して来た。


「じゃあ音羽なら...彼をわかってあげられる?」

「全!然!わかんない!」

 調子狂うなあ~...その意味では風岡と似てるかも。


「あなたの気持ちはわかるとか、私も同じ気持ちとか言う人いるけど、結局自分のことは自分にしかわからないよ。仮に自分をわかってくれる人がいても、自分よりわかっている人なんて存在しないよ。」

「そっか...私を好きになってくれた彼に...私は何もしてあげられないよね...」

「好きになってくれたとしても、興味ない人だったら普通適当に扱うのに、何かしてあげようだなんて梨乃らしいね」


 私の特別になろうとしてくれた彼に、何かしてあげたいと望むのは可笑しいことなのだろうか?いや、私は何かしてあげたいのではなく...


「ほっとけないんだよ。あの目を見ちゃうと...」

「風岡前に私に言ってたよ。恋は落とし穴見たく気付いたら落ちてるもんだって。あの顔じゃ無かったらくっさって言うところだったよ。」

「私もしたくて恋をしたんじゃない!って言われたよ。何も言ってあげれなかった。」

「たぶんさ、恋するの初めてだったんじゃない?だから何をすれば良いのかもわからず戸惑ってるんだよ。」


 彼はいつからあんな生き方をしているのだろう。早くからあの生き方をして、全てを諦めていたのなら、きっと恋なんてしたことないに決まってる。


「梨乃は...風岡のこと嫌い?好き?」

「嫌いなところと好きなところがある。でも彼には好きなところがあるなんて言ってないから嫌いと思われてるって勘違いしてるかも。」


 何故か音羽が笑った。

「じゃあ風岡からしたら"俺のことが嫌いな俺の好きな人"だね」

「なにそれ」


 意味わかんないと一緒に笑ってその電話は終わる。花火はとっくに終わっていた。

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