第五章.男と女.

華々しく輝かしい神聖な式が終わり、誰もいない会場の壇上。貴方と二人きり。


「楽しかったね」

「歩き方ぎこちなくなっちゃった。面白かったけど」

たった一人で、笑いながら話す女。


こんなにも綺麗な黒色のウエディングドレスに包まれるだなんて、小さい頃の私は想像もしていなかった。幼い頃の私は、真っ白で、ふわふわして、キラキラお星様みたいに輝いていて、北極狐みたいなウエディングドレスだと勝手に思い込んでいた。笑顔で周りの人達に祝われて、とっても素敵な大人のお姉さんになってると信じきっていた。でも、夜に溶け込む黒狼のような貴方とお揃いにできるのなら、喜んで過去の思想なんて手放してしまう。

それが例え真逆のことだろうと。


真っ黒なドレスを、貴方が似合ってるよって言ってくれると思ったから着た。メイクも、モノトーンで締めた。でも、貴方は言ってくれなかった。青白い唇を動かしもせずに、真一文にして寝ているだけ。

だから、綺麗なルビー色を足した。貴方が見てくれるように、派手な色にした。幸いなことに周りに沢山の人が居たから、みんな協力して私のドレスを着飾ってくれた。

喜んで身を差し出して、体を切り裂いて、私のウェディングドレスに赤色を足してくれた。


左手の薬指にあるお揃いを見ながら、あるたったひとつの考えが頭によぎった。


「ねぇ、過去の私の気持ち、話したい」

この二人っきりの空間で、誰も聞いていない今この瞬間に、全部全部終わりとしたかった。


過去の私では、貴方に向かって絶対に言えない言葉。それでも、今なら安心して言える。

確信も何も無いのに当然のようにそう思えた。


貴方を愛しているから。貴方が今誰を愛しているのか知っているから。


貴方の笑顔がどれほど私を苦しめたのか。

今なら教えてあげられる。

貴方を愛しすぎて、大好きで堪らなくっていったこと。

素直に可愛くなれない自分がどんどん嫌いになっていったこと。

だけど、貴方との愛を確かめあった今なら、素直になれる気がしたの。

今でも鮮明に思い出せる。


全てが印象的で刺激的な日々だったから。


全てが印象的で刺激的なあの日だったから。


あの日と違うのは、貴方が死人のように冷たいことと、私の身体の半分が爛れていること。

傲慢な体を手に入れてしまった。

体の半分は貴方とこの世を去ったのに、まだ身体の半分は貴方に愛情を注ぎ続けれるのだから。

きっと貴方は、完璧な愛情表現だと褒めてくれる。他の人と違って、狂っているとわざわざ非難しては来ない。


だって、貴方と私だから。


──愛し合っているから──

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黒いスピリタス @agi_minato

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