女.其の二.

ベットから体を起こして、けたたましく鳴り響くアラームを止める。

顔を洗ってスキンケア。

髪をひとつにまとめて縛って、コップに入っている水を飲み干す。

メイクポーチのチャックを開く。日焼け止め、ファンデ、コンシーラー、パウダー、ハイライト、シェーディング、アイブロウ、アイシャドウ、チーク、マスカラ、アイライナー、リップ。

順番に1個ずつ出しては、私の顔を彩っていく。

朝の腑抜けた顔が、着々と覇気を纏っていく。

いつもより顔にメリハリをつけて、いつもよりアイライナーを強く引いて、いつもより赤リップを際までのせる。

目の前の鏡に映る私は、この世の中で一番美しい。自意識過剰なんて言葉じゃなくて、ただの事実。

当たり前だよねと呟きながら、玄関扉を開けた。

ビル風が吹き荒れる街に降り立って、深呼吸を何回も、何回も風に乗せた。

私の思いが少しでも早く伝わって欲しいという願いも込めながら。


愛が重く、黒すぎる私を浮き彫りにするように空気が清々しい。

神様はとても意地悪だ。

排気ガスの香り、パン屋の香り、太陽の香り、

風の香り、土の香り、雨上がりの香り。


ドラッグストアに行って、家中の気持ち悪い匂いを消すために無臭の石鹸と芳香剤を買おうとして、やめた。もうどうでもいい。


軽快に歩いていると、懐かしい看板が目に入ってきた。有名な世界規模の高級ブランド店。今はどんな商品が売っているのか気になって、久しぶりにブランド店に入ってみた。


あの人と付き合ってからは、自分を強く見せるための仮面を外していたから、ブランド品なんて身につけていなかった。ありのままの私を曝け出して、自分自身が強くなったと勘違いして、調子に乗っていた。傍から見たら滑稽すぎる。

それでも今は、このまま捨てられるかもしれないとか、ひ弱でネガティブな事は考えていなかった。今の私は強い女だから。


店内を一通り見て周り、私に似合うものが無いと分かったら髪を靡かせて、店を後にする。


シーズンが変わる度に足を運んでいた頃を思い出す。

あの頃はただただ、楽しかった。不安な日々なんて、恋の天秤なんて、駆け引きなんてものもそもそも無かったし、知らなかったし、私には必要ないと思っていた。

店と外の境界線を跨いだとき丁度に、スマホが通知を知らせた。過去の常連ブランド店その二に足を向けながら、スマホに目を向ける。


風が強く吹き、目がしっかり開けられない状態で見た画面。

スマホを思わず落としそうになった。

勘違いかとも思ったが、既に風が弱まってきてしっかりと見える画面には、先程と同じ文が表示されていた。

そこには、久しぶりに見るであろう名前と文面があった。


私に向けられた言葉は、いつぶりだろうか。


今夜会える?なんて、貴方からのメッセージ。期待してしまう。

期待させている、私だけに向けられた言葉だと。

でも、この人の事だからきっと違う。


貴方は私を愛しているかもしれない。愛を囁いて、抱きしめて、私を虜にしている。

その仕草を、あと何人の女にしているのだろう。

私だけを見ればいいのに。私が一番貴方を愛しているのに。貴方には私が必要なのに。どうして、貴方は分からないのだろう。


男は精神年齢が女よりも低いという。それは当たっている。男は浮気をする生き物だという。それも当たっている。男はプライドが高いという。それも当たっている。でも、疑問が残る。

プライドが高いのなら、なぜ一人の女を愛さないのだろう。何人もの女を一気に跨いでいるのがかっこいいとでも思っているのだろうか。もしかして、これだから精神年齢が低いと言われているのか。



もし、そのプライドをへし折ってみたら、どうなるのだろう。

貴方を浮気できなくしたらどうなるのだろう。

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