第5話 ニコ兄とロロ

 俺は、ニコラウス・レーヴェント。9歳だ。みんなからはニコと呼ばれているぜ。

 俺は母上似の藍色の髪を短くしていて、父上似のダークブルーの瞳だ。父上と母上の両方の色をもらったんだ。

 でも性格は姉上に似ていると言われる。姉上程、俺は無謀じゃないぞ。

 確かに、兄上みたいに冷静な訳じゃないけど。


「ニコは行動する前に、少し考えてみるといいよ」


 と、兄上に言われた。分かっているんだけど、つい体が先に動いてしまうんだ。


「やんちゃ盛りだから仕方ないね。でもニコがいると賑やかでいいよ」


 なんて、それは褒められているのか?

 姉上や兄上と一緒に、俺やロロも冒険者になろうとしたんだ。でも駄目だと言われた。

 10歳からしか冒険者登録できないんだって。悔しい。俺も役に立ちたいのに。


 だから俺は俺のできる事をする。毎日、先ず家の周りの畑と薬草に水やりをする。それから近所の畑を手伝いに行くんだ。俺はこう見えて、植物を育てるのが得意なんだぜ。

 時々、防御壁の外に出て、薬草採取をする時もあるんだ。森の近くにさえ行かなきゃ魔獣はいないから平気なんだ。

 その薬草を兄上やロロがポーションにしたり、街の薬師に売ったりしている。


「ニコは大雑把なのに、植物を育てるのが上手だね。薬草も立派だ。どうしてだろう? 不思議だ」


 と、兄上は言う。大雑把じゃないぞ。ちゃんと考えているんだ。大きくなれ~ってさ。

 毎日、マリーの孫娘のユーリアと一緒に行くんだ。直ぐに口喧嘩をしてしまうけど、ユーリアは親友だ。俺より年上だけどな。

 あと1年したら、俺も姉上や兄上の様に冒険者になってみんなを守るんだ。それが俺の野望だ。


◇◇◇


 そして、三男の末っ子が俺なのだ。ロロアールド・レーヴェント、なんとまだ3歳。ふわもちの幼児体形なのだ。

 父親似の金髪に、母親似のラベンダー色の瞳。中身は元社会人なので、お利口さんな末っ子なのだ。

 レオ兄に教わって勉強したりポーションを作ったり、マリーに教わってクッキーを焼いたり刺繍をしたり。毎日のんびりと過ごしているのだ。

 この前、レオ兄に魔法を教わった。そしたら付与魔法が出来るようになったのだ。


「ロロの身体の中に温かいものがあるだろう? それをゆっくりと動かす練習をするといいよ」

「ぽかぽかぐるぐる?」

「そうだよ」


 と、教わっただけなのだ。なのに何故だ? 付与ができちゃったのだ。やはり、あの泣き虫女神が気を利かせてくれたのだろうか?

 だからと言って、超強力な攻撃魔法が使える訳でもないのだ。

 まだ3歳だから、できる事は大したことがないのだ。


 俺達兄弟と一緒に住んでいるマリーの家族を紹介しよう。

 マリーは一家で俺達の家で働いていたのだ。元気で明るい人なのだ。

 息子が幼い時にご主人が亡くなったそうなのだ。その時に助けたのが俺達の祖父母なのだそうだ。

 その縁で、息子夫婦も仕えてくれていたのだ。

 マリーの息子夫婦が俺達の両親と一緒に亡くなり、孫娘2人と俺達四兄弟を引き取ってくれてこの街にやって来た。

 ご主人だけじゃなく、一人息子まで亡くしたのに気丈な人なのだ。亡くなった息子夫婦の代わりに、孫を育てなきゃと思っていたのかもしれない。

 この街は、マリーが育った街なのだそうだ。ピカに収納してもらっていた、俺達の家から持ち出した彼是を売ったお金でこの家を買った。当面の生活費もできた。安心して住む場所が見つかって良かったのだ。


 マリーは俺達四兄弟を育ててくれた乳母なのだ。薄紅色の髪をいつもシニヨンに結っていて、ブラウンの瞳の肝っ玉母さんなのだ。

 もう60歳近くらしいが、まだまだ元気に皆の世話をしてくれている。いつも『あらあら、まあまあ』と賑やかなのだ。


 2人いる孫娘の長女が、エルザ。しっかり者の18歳だ。毎日近くにある食堂で働いて家計を助けてくれているのだ。

 淡いコーラル色したストレートの髪を自然に下ろしていて、ブラウンの瞳。スイーツには目がないのだ。エルザの方が1歳上だが、長女のリア姉と一緒に育った乳姉妹だ。


 次女はユーリア、14歳だ。紅色のウエーブのある髪をおさげに結んでいて、ブラウンの瞳をしているのだ。

 毎日次男のニコ兄と一緒に薬草採取をしたり、近所の畑を手伝ったりしている。

 ニコ兄とは仲が良いのか悪いのか、よく分からないのだ。いつも口喧嘩をしているのに、毎日仲良く一緒に出掛けて行く。不思議なのだ。長男のレオ兄と一緒に育った。


 末っ子の俺はまだ3歳だから、マリーと一緒にお留守番なのだ。ちゃんと、マリーの手伝いもしているのだ。


「ロロ坊ちゃま、おやつ用にクッキーでも焼きましょうか」

「うん」


 きっとマリーが食べたいのだ。マリーやエルザもユーリアも甘いものが好きなのだ。


「坊ちゃまが作るクッキーは美味しいですからね!」


 そんな事はない。俺の小さな手では大して役に立っていない。殆どマリーが作っているのだ。

 それでも、俺もマゼマゼする。手も小さいし力もない。真似事程度なのだ。

 もし味に違いがあるのだとすると、マリーは大雑把なのがいけないのだ。俺はキチンと計るのだ。マリーはいつも適当なのだ。それが原因だと俺は思うのだ。


「沢山焼いて教会に持って行きましょうか」

「まりー、ボク教会っていったことない」

「あらあら、そうでしたか?」

「うん」

「教会には孤児院もあるのですよ。クッキーを持って行ってあげると喜ばれますよ」

「うんうん」


 孤児院か。マリーがいなかったら、もしかしたら俺達も孤児院のお世話になっていたかも知れない。

 そう思ったのだ。

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