第3話 日常

 あれから1年が経った。あの時の大きなワンちゃんは今も俺のそばにいる。堂々と寝そべっている。今日も平和だよね。

 突然俺のそばにいた大きなワンちゃんなのに、姉達やマリーにすんなりと受け入れられた。それも神の力なのか? 不思議なのだ。

 いつも、わふわふと言いながら餌を食べている。名前をピカと付けた。勿論、泣き虫女神の髪の様なピッカピカした毛色からだ。

 お利口さんで良い番犬になってくれている。俺の友達……いや相棒なのだ。

 でも女神がくれただけあって、普通ではないのだ。

 とっても凄いワンちゃんなのだ。そして、強いのだ。俺の中では最強確定なのだ。だから冒険者をしている姉達と、一緒に魔獣討伐へ行く時もあるのだ。

 ピカは引っ掻き攻撃をするのだ。それに魔法も使える凄いワンちゃんなのだ。鋭い風の刃を飛ばして魔獣を倒すのだそうだ。俺はまだ見た事がないのだ。

 それから、もう1つ。ピカはなんでも収納してくれるのだ。家を追い出された時にも、とても役に立ってくれたのだ。沢山の荷物を全部ピカが収納してくれた。お陰で色々持ち出せたのだ。

 俺達兄弟の分だけじゃなくて、両親の物や家中の貴重品を持ち出してやったのだ。あの胡散臭い叔父夫婦に渡すのは勿体無いし悔しいのだ。両親の物をあんな奴に渡したくなかったのだ。

 今は姉達が、倒した魔物をそのまま持って帰る時にとっても役に立つのだ。

 そして俺だけなのだが、ピカに触れているとピカの言いたい事が分かるのだ。

 女神がくれたワンちゃんだからだろうか?

 今日は姉や兄と一緒に出掛けて行った。と、いう事は今日の夕飯には肉が出るかも知れないのだ。期待大なのだ。

 姉と兄はクエストではダンジョンに潜る時もあるし、近くの森で魔獣退治をしている時もある。

 ダンジョンで魔物を討伐すると、死体は残らない。お決まりの様にダンジョンに吸収されて、ドロップアイテムの魔石のみが残る。なので、ダンジョンに潜った時には持てない程の荷物があるという事はない。

 ピカを連れて行ったという事は、大きな荷物になる可能性があるという事なのだ。今日は森で魔獣討伐をするつもりなのだろう。

 その場合、牙や皮などの必要部位をギルドに納品して肉は持って帰って来るのだ。

 だから、俺達は肉にありつけるのだ。


「ごちしょーしゃま」

「あらあら、ロロ坊ちゃま。もうごちそうさまですか?」

「まりー、お腹ぱんぱん。お片付けてつだうのら」

「ロロぼっちゃま、いつも有難うございますね!」

「まりー。坊ちゃまはやめれ」

「ふふふ」


 マリーは俺や姉達がいくら言ってもずっと嬢ちゃま、坊ちゃまと呼ぶ事を止めてくれない。そんな事を毎日繰り返しながら、俺は台に乗って朝食の後片付けの手伝いをしている。背が低いから届かないのだ。

 それに手も小さいから、食器を洗うのでもなかなかに難しいのだ。指も短くてしかもプクプクなのだ。仕方がない、まだ3歳なのだ。


「マリー、行ってくる!」

「ニコ坊ちゃま、水やりを忘れないで下さいよ!」

「分かってる!」

「おばあちゃん、いってくるね」

「ほらほら、ユーリア。お弁当持っておいき!」

「うん、ありがとう!」


 ニコ兄とマリーの孫娘で次女のユーリアが出掛けて行った。

 先ず、家の周りで作っている野菜と薬草に水やりをする。それから、近所の畑のお手伝いをするのだ。2人は人気者……いや、大事な戦力なのだ。

 時には、防御壁の外に出て薬草採取をする事もある。森の近くに行かない限りは強い魔獣が出ることはないのだ。そして、街の薬師に薬草を買い取ってもらったりするのだ。

 俺もレオ兄に教わってポーションを作ったりしている。それに必要な基本的な薬草を、家の周りで育ててくれているのがニコ兄だ。

 上級ポーションになるとダンジョンでしか採れない薬草を使うのだ。レオ兄が時々採取してくる。そんな時は一緒にポーションを作るのだ。

 それをリア姉とレオ兄が持って行く。万が一の時の為にポーションがないと不安なのだ。


「ロロ坊ちゃま、もうすぐ教会でバザーがあるんですよ」

「ばじゃー?」

「はい! 皆色々商品を持ち合って売るんです。良いお小遣いになりますよ!」

「ひょぉー」

「そこに刺繍したハンカチを出しませんか?」

「しょんなの売れるの?」

「はい! ロロ坊ちゃまの作った物なら大丈夫ですよ!」

「しょっか。ならしょうしゅる」

「はい、だからマリーと一緒にバザーに出しましょうね」

「うんうん」


 前世の俺は、研究職だった。細かい作業はお手の物だ。1人で黙々と作業をする事も好きだった。

 そして、友達の趣味に付き合わされてコスプレの衣装を作ったりもしていたのだ。

 自分でコスプレをする勇気はなかったが、衣裳を作って欲しいと依頼されることもあったのだ。

 そんな事が今世に生かされているのかも知れないのだ。

 俺の小さな手でチクチクと刺して作った刺繍入りのハンカチ。

 前世の影響なのか俺は手先が器用だ。それに実は、軽くだが防御らしき効果を付与する事ができるのだ。

 リア姉とレオ兄が髪を結んでいるリボンには、しっかりじっくりと一針ずつ効果を付与してあるのだ。

 防御と言っても高い効果がある訳ではないのだ。まだまだ俺はちびっ子だから、能力もそう高くはない。

 防御というよりも、運アップという方が近いかもなのだ。だって攻撃を防ぐ事までは出来ないのだ。

 なんとなく嫌な予感がするとか、こっちの方がいい気がするといった程度なのだ。それでも、命に係わる様な危険な事からは守られる筈なのだ。多少は役に立つかも知れない。

 大きくなったら、姉達の服を作りたいなぁとこの頃思っているのだ。

 レオ兄に魔法も教わっているから、それももっと上達したい。

 まだ3歳の俺には野望が沢山あるのだ。

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