第1章 ルルンデで生活するのら
第2話 女神
俺は、突然目の前で泣き崩れるリシアディヴィーヌにドン引きしたのだ。
「ご、ご、ごめんなさいぃぃぃーッ!」
と、額がつくほどに土下座され謝られた。そしてギャン泣きされたのだ。
「びぇぇぇーんッ!」
綺麗なお顔が大変な事になっている。泣きたいのはこっちなのだ。
宝石を散りばめた様に、キラキラと光るプラチナブロンドのウエーブヘアが地面についてしまうのではないかと思うほど長く、抜けるように澄んだ夏の青空の様な碧眼。
そして流石女神とでも言うべきか、存在自体が煌めいていてこの世のものとは思えない程の美人さんなのだ。
神なのだから当然この世のものではない。
教会にありそうな女神像の様な衣装で、肩から竜宮の乙姫様や天女がまとっていそうな薄い布を掛けている。
その布も衣装も、触らなくても絶対に手触りが良いだろう、柔らかいだろうと見ただけで分かる。薄桃からゴールドの見事なグラデーションで、ただの布ではない事が見て取れる。
そんな神々しい雰囲気を見事にぶち壊して、俺の前にぺたんと座り込み号泣している。ポロポロとではない、号泣なのだ。洪水なのだ。
見た目は年頃の年齢に見える。超美人でスタイルも抜群。透き通った白い肌とはこの事なのだろうと納得する様な美しい肌。
なのにその恰好でギャン泣きはどうなのだろう。ギャップが大き過ぎて引いてしまう。
そんなに謝られても、俺は何の事だか分からない。と、言うかここは何処なのだ?
そこはリシアディヴィーヌの世界だったのだ。澄み切った青空に心地よい日差しと小さな花が咲き乱れ、小川がサラサラと流れている。少し遠くに見える木には、大きな桃の様な実が成っている。
桃源郷とは、この事だろうと思える世界。
「ご両親を助けられませんでしたぁぁぁー! ごめんなさいぃー! びえぇぇぇーん!」
と、まだ土下座をしている。長い髪が地面についているぞ。
「え? 何の事だか分からない」
「まだ2歳なのにぃ! 親を亡くすなんてぇー! がわいぞずぎまずぅぅぅー! あばばばばぁぁぁ!」
またまた、泣き崩れているのだ。後半はもう何を言っているのか分からなくなっている。
涙だけでなく、他の水分も流れ出ている。折角の美人さんが台無しなのだ。
それを見て唐突に思い出したのだ。自分の前世をだ。
俺は前世、研究職の社会人だった。別にブラック企業だった訳ではない。
だがある日突然、出社したら研究所の入り口に鍵が掛かっていて張り紙がしてあった。倒産したという張り紙なのだ。その月の給料は振り込まれなかった。くそぅ。
だが、幸い蓄えはあった。今度は自分の趣味も活かせる職業が良いなぁ等と、呑気な事を考えながら就職活動をしていたのだ。そこで記憶が途絶えている。
「産まれたばかりのロロの魂が消えるときに、急遽その体に合う魂を持ってきたのです。それがあなたなのです」
確かそう説明されたのだ。なんてこったい。なら俺の人生はどうなる? 理不尽過ぎやしないか?
「いや、俺戻りたいし。明日からのコミケにも行く予定なのだ」
「ごめんなさぁーい! もう戻れないんですぅ!」
「あ゛あ゛!? あんだとぉ!?」
「ひぃぃ〜ッ! ごめ゛んな゛ざい゛ぃぃ!」
そんな勝手な事があるのだろうかと、その時は腹立たしかった。俺は全然関係ないのだ。
翌日からのコミケに、友人と行く約束をして楽しみにしていたのだ。好きなアニメの映画も封切られる。なのに!
「だからぁ、肉親の縁の薄い人を選んだんですぅ!」
なるほど、確かに俺は肉親の縁が薄い。
母親は再婚だった。再婚相手の義父との間に子供が2人いて、自分の居場所が無いように感じていた。
だから無理を言って、大学から一人暮らしなのだ。それ以来、親からの連絡は滅多にない。
それでも、学費は払ってくれていたので有難い事なのだ。
大学生の頃は、ずっとバイト尽くめだったのだ。いつもお金が無くてお腹を空かせていた。
まあ、お金がなかったのは趣味につぎ込んでいた所為もある。沼って怖いよね。底なしなのだ。
それでも誰にも遠慮せず、気を遣わず暮らせる生活が気に入っていた。社会人になってからは、生活にもゆとりができた。友人と一緒に、趣味に没頭できて楽しかったのだ。
なのにだ。そんな理不尽な理由でいきなり転生させられるなんて。
2年前の怒りがまた込み上げてきたのだ。思わず目の前で泣いている女神を、ギロリンと睨んでしまったのだ。
「ご、ご、ごめんなざいでずぅー! びえぇぇぇーんッ!」
俺の目の前で、またもやギャン泣きする創世の女神。これでよく主神なんてやっていられるものなのだ。
「お願いじまずぅぅー! 言えないですぅー!」
何が言えないのだ? お願いされても困るのだ。
「詳しい事は言えないですぅ! でもお詫びを送りますぅ! ごめんなざいぃぃー!」
詳しい事は言えないのに、お詫び? 理解できないのだ。
「とにかく無事に生きていて欲しいのですーッ! 今はまだ言えないのですーッ!」
そして、目の前が白くなって目覚めたのだ。あの自称創世の女神め。勝手に決めて、勝手に呼んで、勝手に帰しやがったのだ。
寝ていた筈なのに気怠く若干疲れた。今の俺は2歳なのだ。どうするのだ! まだちびっ子ではないか!
俺がベッドの中で放心状態になっていると、ほっぺを思い切りベロロンと舐められた。大きな舌だ。ザラザラしていてちょっと痛い。
ふと、横を見るとキュルンとつぶらな瞳が俺をみている。
「わふぅ」
「え……わふわふ?」
そして、またベロロン。大きな舌攻撃なのだ。
「うわッ」
「わふッ」
またまたベロロン、ベロロンチョ。
「やめれ、舌がいたいのら」
「くぅぅ」
俺の横には、いつの間に入って来たのか大きなワンちゃんがいたのだ。2メートル程あるだろうか。大きな体を伏せて、俺の顔を舐めてきた。
「ぶふふッ……やめれ」
フッサフサの毛が、ピッカピカなプラチナブロンドだ。スカイブルー色したつぶらな瞳がちょっぴり下がっているように見えるのは気の所為か? この色味ってあのギャン泣き女神と一緒か?
ブンブンとフッサフサな尻尾を振っている。アルプスにいそうな大きなワンちゃんなのだ。
若干の垂れ目でジッと俺を見つめている。
「ましゃか、女神が言ってた『お詫び』ってワンちゃん?」
「わふっ」
マ、マジかッ!? デカすぎないか? 犬だよな? 違うか? いや、分からんのだ。
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