元貴族の四兄弟はくじけない! 〜追い出されちゃったけど、おっきいもふもふと一緒に家族を守るのだ!〜

撫羽

第1話 プロローグ

 前日からの冷たい雨が降り続いていた。

 1年を通じて穏やかな気候のこの国には珍しく、絶え間なく何もかもを包み込む様な雨がずっと降り続いていた日だった。

 暗黒の空を稲光がピリピリと駆け、雷鳴が邸の窓ガラスを揺らし雨が打ち付ける様な夜だった事だけぼんやりと覚えている。


「私がッ! 私が家を継ぎます! 弟達も私が育てますッ!」

「この家は僕達の家です!」

「姉上! 兄上!」

「うぇぇ〜ん!」

「女のお前に何ができるんだ!」

「父上から教わっています! できますッ!」

「あー! 煩い煩い! もう私が爵位を継承する手続きは済んでいるんだ! さっさと出て行け!」


 突然、父と母が死んだ。

 そして、俺達四兄弟は生まれ育った家を追い出されたのだ……。



◇◇◇



 ここは、テンブルーム王国。フォーゲル伯爵領の街、ルルンデ。

 王都に日帰り出来る、ギリギリの距離にある領地の隅っこの小さな街だ。程々に自然も残っていて、小さなダンジョンもある。街を守る立派な防御壁もあるのだ。

 衛兵が防御壁の出入口で警備をしていたり、街を見回っている。その為か治安は安定していて、街の規模にしては便利で賑わっている。

 街の中心には商店もあり、冒険者ギルドや宿屋もあるのだ。その周辺にある畑では新鮮な野菜が作られているし、防御壁から出て直ぐの草原では薬草も採れる。

 近くには森があり、そこに小さなダンジョンがあるのだ。そのダンジョン目当ての冒険者もいる。森には危険な魔獣が棲息しているが、奥には川がありそこでは魚も捕れる。豊かな領地にある街なのだ。

 その街の中心から、少し離れた場所に建つ何処にでもある様な一軒家。もう少し行くと畑が広がり農家が多くなる。そこが、俺達兄弟と元乳母の家族が今住む家なのだ。

 

「姉上、早く行かないと良いクエストが無くなってしまう」

「レオ、分かっているわッ!」


 1番上のリア姉と、2番目のレオ兄が出掛ける準備で慌ただしい。

 いつまでもリア姉が朝食を食べているから、レオ兄が呆れているのだ。


「あらあら、嬢ちゃま、坊ちゃま。お弁当ですよ!」

「マリー、その嬢ちゃまは止めてちょうだいと言っているじゃないッ!」

「マリー、いつも有難う」


 マリーとは俺達の乳母だ。いや、乳母だった。俺達が家を追い出されても変わらず世話をしてくれている。俺にとっては母親代わりなのだ。


「おばあちゃん、行ってくるわね!」

「はいはい、気をつけるのよ!」


 バタバタと出掛けて行ったのが、マリーの孫娘のエルザだ。近くの食堂で働いている。

 慌ただしい朝だ。いつもの事なのだ。


「うまうま」

「ロロ、ほっぺについてるぞ」

「にこにい、うまうま」

「な、美味いな」


 次男で9歳のニコ兄と三男でまだ3歳の俺は、慌ただしさには関係なくほっぺを膨らませてモッキュモッキュと噛み締めながら、マリーが作ってくれた朝食をのんびりと食べているのだ。

 俺達は元乳母のマリー一家と一緒に住んでいる。1年前迄は、俺達は貴族の坊ちゃんだったのだ。


 1年前、突然両親を亡くした。それ以来、兄弟4人と乳母だったマリー一家と一緒になんとか暮らしている。

 伯爵位を叙爵されていた父が亡くなり、何処から聞きつけたのか父とは絶縁状態だった父の弟だという胡散臭い叔父夫婦が乗り込んできた。爵位を継ぐためだ。

 ギラギラとしたド派手でセンスのない服を着た叔父夫婦だ。

 俺達も会うのはその時が初めてだった。父に弟がいる事自体を、知らされていなかったのだ。

 俺達の両親は堅実でとても愛情豊かな人だった。その両親が絶縁していたのだ。余程なのだろう。

 その叔父夫婦を、なんて奴等だと思ったのだ。

 そして、叔父だという人がさっさと手続きを済ませてしまったらしく、爵位を継ぐ事になったそうだ。俺は詳しくは覚えていないのだ。

 とにかく突然やって来た叔父夫婦に、俺達は家を追い出されたのだ。

 その時俺は、まだ2歳になったばかりで泣いていた記憶しかない。

 行き場の無くなった俺達を、不憫に思ったマリーが引き取ってくれたのだ。そして、マリーの故郷だったこの街で一緒に暮らしているのだ。

 マリーの息子夫婦も俺達の両親と一緒に亡くなった。なのに、恩義があるからと言って引き取ってくれた。有難い事なのだ。


「じゃあマリー、行ってくるわッ!」

「あらあら、いってらっしゃいまし!」

「ニコ、ロロ、お利口にしているんだよ」

「兄上、俺はいつもお利口だ!」

「れおにい、いってらっしゃい」

「ニコー、ロロー!」

「姉上、苦しいです!」

「ねーしゃま、いってらっしゃい」

「ああ、可愛いッ! いってくるわねッ!」

 

 いつもの朝のルーティンだ。リア姉とレオ兄が順に次男のニコ兄と俺にハグする。それから出掛けて行くのだ。

 リア姉なんて、毎日俺のほっぺにスリスリする。やめて欲しいのだ。


 実は俺には、隠し通さなければならない秘密がある……前世の記憶があるのだ。

 1年前、両親が亡くなった時に突然呼ばれたのだ。創世の女神、所謂この世界の主神だと言う女神に突然呼び出され泣きつかれた。その時に思い出したのだ。


「ご、ご、ごめんなさいぃぃーッ! びぇぇぇーんッ!」


 このギャン泣きしているのが、この世界の創世の女神であり主神なのだ。リシアディヴィーヌという。

 このヘタレで泣き虫女神の話をしよう。


 俺達の両親が亡くなった夜、ベッドに入った。まだ2歳なりに、精神的にショックを受けたのかも知れない。なかなか寝付けなかったのを覚えている。

 そしてそのまま、この世界の創世の女神であるリシアディヴィーヌに呼ばれたのだ。




 ◇◇◇


お読みいただき有難うございます!

新作です。

宜しくお願いします!

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