第2話 騎士と聖女

王の衝撃的な異世界の事情の後も一息つく暇もなく別室に連れて行かれた。クラシカルな長いメイド服を着た人につれられ部屋に着く。

「こちら、聖女様のお部屋でございます。後に騎士様が参ります。急なこととなり、申し訳ございませんが、明日からは各宗教団体様を巡っていただきたく存じます。そこでの問題解決能力を持って王は貴方を正式な聖女とするか判断したいとのことです。それではごゆっくり。」

「あ、はい」

、、。

こちらとて、勝手に指名された聖女。女は今までただのオタクでしかなかったため、どえらいことが起こっても、拒否するだけの勇気と自尊心を持ち合わせていなかった。

よく異世界転生をした女性は、いきなりコミュニケーション能力がバク上がりし、なんなら知性も豊かな人になり、誰よりも誠実で、明るく素敵なみんなに愛される人間になることが多い。そんな人となりであれば、前世でもさぞかし大成できたことだろう。

そんなメタいことをいわゆる「なろう系」を嗜んでいるくせに考えるような、


つまり女は卑屈な人間だった。


そして、人並みにアニメや漫画のキャラクターに憧れ、だからといってオタクの友達を作るだけの交友意識もなく、学校に固定の友達が何人かいるような己の狭い友好関係で満足している弱いオタクだった。リアルイベントに行くだけの財力も友人もいなかったため、リアルイベントに行く現代的な可愛いゆるふわオタクを見て、「いゃ、ゃやはりオタクコンテンツは二次元であるからいいのですし、おすし、。」とか時代錯誤を素で思う古典派だった。

そんな人が異世界転生をしたらどうなるか、そりゃイエスマンになるしかない。初めて話す人しかいない(当たり前)全てが新鮮(そりゃそう)の世界にまず順応さえしていなかった。

そう、彼女は典型的なオタクだった。

しかし、そんな彼女も今は己のキャラを投げうってまでも聖女をやらなければならないと肌で感じていた。 


言うなれば、生命の危機を感じたのだ。


いつもなら、え!私が聖女?!ヤバすぎ!とか思って他作品の主人公のようにイケメンとの空想の恋バナに胸を躍らせたり、これからもイケメンパラダイスならぬイケメン回転寿司やん!?!!イエス!イケメン!ノータッチ!!!?!とかバイブス上げて脳内DJが高らかに歌うところだが、さきほどのことはそんな彼女の脳天気なの性格を変えるくらいには衝撃的な出来事だった。


外から靴音が聞こえる。

騎士、騎士がもうすぐ来る、のか。



控えめなノックが室内に響く。

「はい、どうぞ」

極めて冷静に返事をする。


赤い。

太陽の様な髪色をはためかせ、あまり騎士にみないチャラそうな男が入ってくる。格好は確かによくいる騎士だが、着崩していて少し緩い。

「こんにちはーっ、ルシフです。え、マジ聖女につくとか今日聞いて、びっくりってかんじなんだケド、、、」

一見すると騎士はおちゃらけた人だった。

ゲームでいうところのチャラめのお兄ちゃんポジだ。しかし、それはいわば彼に丁寧に塗りたくられた塗装の様なもので、その外見で彼は自分の本心を巧妙に隠していた。

彼を構成するのはただ権威に対する尊厳と神に対する憎悪で、この世界では本当に珍しく神を憎んだ人だった。しかし、彼はその真四角で真面目な性格を、見た目の軽薄さと口調で誤魔化していたのだ。

そんな彼からすれば、この世界の神のことを全く知らない奴が、聖女に祭り上げられたことは都合が良かった。聖女がココで呼び寄せられたことは、神もそんなふうにひょんなことから人間に身勝手に作られた存在だといえるのではないか、その手がかりになるのではないかと思っていたからだ。

なんならこれから神とかを一緒に疑っていこうぜ!という協働意識さえ芽生えていた。

ただ彼は、本心を見せずに生きてきたプロだったため、そんな様子はおくびにもみせず、ニコッと歯を見せて軽快に笑った。

「よろしくっ!」

「え、あ、騎士様、よよろしくお願いいたひます。」

女は噛んだ。


やはり、余りの出来事に脳はついてきていなかったらしい。


〇〇◯


目を開けた、

と、同時に奇想天外な空の色に目がチカチカして飛び起きる。

ピンク、青、黄色、、etc、。モーニングコールならぬ、モーニングビュー、最悪である。

小学生女児が脳死で塗った塗り絵みたいな空の色をしていた。


やはりここは異世界らしい。


「マジか、やっぱ夢やなかったんか。」

この女意外と冷静である。

昨日はあの後、上限突破したSSRビジュの騎士を見て以来、やっぱりここが現実ではない気がして、その後にきたメイドさんにあれよあれよと身支度を整えられ、

気がつけば寝ていた。


毎日同じオフトゥンで寝る。

女はそんな人生しか送ってきていなかったため、警戒心というものを抱いたことがなかった。つまり、危険な空間で寝たという経験がないため、危機感の抱き方からママのお腹の中に置いてきてしまったのだ。

経験がないとは兎にも角にもこういうことだ。小学生のチビちゃんと同レベルの危機感のなさである。


彼女はノックされたため急いで、身支度を終えドアを開けた。

「ぉまたせしました。」


ドアを開けると美青年がイタ〜ここのドアは異世界に繋がってる?ダンジョンのカフェ始めました〜


、、、。はっ、

女はルシフのあまりのイケメン振りに架空のアニメopとテロップが流れた気がしたが、邪な心を悟られぬよう笑みを浮かべた。

「おはようございます。どうされたんですか?」

「昨日の今日でゴメンなんだけどさ、王様がさ、孤児院行けだって。なんかこの世界のコトを知る経験になるんじゃね?みたいな考えみたい。オトモしまーす。」

本当に。

あまりにも急である。


「え?今から行く感じですか?」

「うん。案内しますねー。オレの生まれ育った孤児院なんだわ。なつかしー」

彼はなんてことないように言った。


しかし、その表情は朝日の眩い陽射しに翳ってわからなかった。














女はその姿を見て、

髪色も相まって太陽の様な男だと思った。




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