アクションRPGのラスボス、城から地底ダンジョンへ引っ越し真のラスボスとして勇者に備える

明石竜 

第1話

「次は、絶対に負けんからなっ!」

 ある春の日、とあるアクションRPG世界のラスボスは、苦々しい表情でプレーヤー側が操作する勇者との戦いに備えていた。

 ストーリーのラスボス撃破、ようするにクリア後のやり込み要素で、より強化された真のラスボスとの再戦がまもなくアップデートで解放されるのだ。

 舞台はラスボスが牛耳っていたお城から地底ダンジョンへ。

「俺様の城まで破壊することはねえだろ。開発スタッフさんよぉ。おかげで薄暗くてじめじめした地底ダンジョンに引っ越しだよ」

 真のラスボス、不平不満を呟く。

「しかしながら、強烈なパンチと圧し掛かり、地響きで勇者の身動きを封じる力がより強化され、スピードも上がり、HPが3倍、魔法攻撃の雷撃や氷結まで出来るようにしていただいたのですから、そこは満足されているのではないですか?」

 ラスボスの手下の雑魚敵が突っ込む。

「それはまあ、嬉しい所ではあるな。今回はRTA走者やノーダメージクリア連中でも

大苦戦させてくれそうだぜ」

「あの連中は僕たちのことを完全に舐め切ってますからね」

「ああ、低レベル縛りとか、装備未使用とかで挑んで来やがるし……俺様負けたけど。

あいつらにだけは絶対プレーして欲しくない。俺様の攻撃すらさせてもらえず

見せ場も作らせてもらえず、簡単に嵌め倒されちゃうところが動画にアップ

ロードされて、世界中で笑いものにされちゃうからな。ラスボス弱過ぎとか。

あいつらは人間のプレーじゃねえよ。アクションゲーム苦手な奴やゲーム初心者にプレーしてもらいたいぜ。あと、発売から何か月も何年もしてからセールの時狙ってこのゲーム買った連中は俺様は本当のファンとは認めない。この間やって来たRTA走者の若造プレイヤーは40%オフの新生活セールで買ったみたいだしな」

 ラスボスは苦い表情を浮かべておっしゃる。

「おっしゃる通り、定価の時に買って欲しいですよね」

 手下の雑魚は共感した。

「あとは出来ればダウンロード版で買って欲しいものだな。パッケージ版買った

奴らの中には、速攻でクリアしてすぐに売りやがる不届き者がいるからな。

パッケージ派の奴は、出来れば俺様のフィギュア付き限定版を買って

欲しいものだ」

 ラスボスは加えて要望した。



 そして迎えたアップデート時刻の午後7時。

「このダンジョンの俺様のいる場所、かなり深いからまだしばらくは来なさそうだな」

 ラスボスは、余裕の表情で眠りにつくことに。


 それから30分ほどのち、

「起きて下さい。勇者が超強敵の門番や難解な仕掛けも物ともせずもう来そうです」

 手下の雑魚に呼び起され、

「なに! この異常な攻略スピード。あのRTA走者だな。せっかく開発スタッフ

さんが追加シナリオも用意してくれたのに、スキップなんかして勿体ないぞ」

 ラスボスはやや驚き顔も、

「さてと、開発スタッフさんの本気を見せてくるか♪」

 楽し気な気分で勇者と対峙しに行くのだった。


    ☆


バシュッ、ドカッ、バキッ!

「グワァァァ~」

 真のラスボス、またもや攻撃の隙すら与えてもらえず。勇者にダメージ一つ与えられず、惨敗。

 プレイヤーに完全クリアされたわけである。めでたし、めでたし。


   ☆


「超強化されたはずなのに、思うように動けなかった(泣)」

「あの連中、本当ヤバ過ぎですよね」

 真のラスボス、手下の雑魚と共に落胆する。


「くっそ、俺様の攻撃が全然当たらねえ。なんちゅう軽快な動きしやがる」

 さらにはノーダメージ、低レベル低ステ縛り勢にも勝たせてもらえず。

「プログラマーさんや、続編ではもっとあの連中をもっと大苦戦させるような

設定にしてくれよ。たとえ売上が落ちようともな」

 真のラスボスは嘆き声で切望するのであった。



「RTA走者はひどいプレーをするなぁ。普通梯子やパラシュート使ってゆっくり

降りる場所でもダメージ気にせず飛び降りさせたり、敵を倒しながら慎重に進むべき所をダメージ食らわせて無敵判定中に一気に駆け抜けさせたりするからなぁ。おかげで全身あざだらけだよ。しばらく休みたいよ」

 勇者の方も、自分を操作するプレーヤー側に不安を持って、こう呟くも、

「世界のトップ層はすげえな。俺もさらなるタイム短縮目指して精進しないと」

 プレーヤー側には当然のようにこの声は届かず。

 世界中のRTA走者達は日々長時間練習に励み勇者を酷使し、真のラスボスをも瞬殺しまくるのであった。

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アクションRPGのラスボス、城から地底ダンジョンへ引っ越し真のラスボスとして勇者に備える 明石竜  @Akashiryu

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