第3話 よきにはからえ

 とりあえず鳥を一羽仕留めた。・・・仕留めたのはいいのだが、問題はここから。どう処理すべきか。今世のオイラにとっては生肉でもそのまま食える。だが食わせたい相手である幼女は人間。火を通さないと間違いなく腹を壊す。

 しかし・・・血抜きして羽をむしり、内臓などを抜きとるなど処理工程は盛りだくさん。子供にそれら全てをこなせというのは酷である。かと言って今のオイラにそんな器用な真似はできないしなぁ。


 一番いいのは処理できる人間に助力を求めることなんだが、下手したらそのまま肉をパクられるかもしれないし・・・そもそもオイラじゃ交渉すら覚束ない。幼女も同様。・・・・・・不器用なりにやってみるか。やる前から諦めては駄目だ。何事も挑戦!



 一時間後。結果は見るも無残な惨事と相成り申したってか。四苦八苦しながら処理した鳥肉は可食部分が半分以下となった。血抜きも雑だったせいか調理して(焼いただけなんだけどね)なお臭みが残っていた。だが・・・そんな肉を幼女は実にうまそうに食べている。よほど飢えていたんだな。


 そういえば・・・さっきオイラを囲んだガキんちょ共もガリガリだったな。いま思い返してみると目もぎらついていたし、もしかしなくてもオイラを捕まえて食うつもりだったのか?

 前世の世界も猫を食う文化圏はあったし、毛皮狙いで狩られることも珍しくはなかったようだし。それに腹が極限にまで減れば可食部分が少ない蛇であろうと蛙であろうと食うのだ、猫も選択肢には入るか。まあ、だからといってオイラが食われる義理はない。


 この一年、色んな国々を渡り歩いてきたが、昔に比べて飢饉が増えている気がする。異常気象のせいで作物がとれず、足りない食料を奪う為に争いが起き、人々は飢えに苦しんでいる。正直、眼前の幼女みたいな欠食児童は珍しくもない。

 ひどい所だと町や村の中の道端でも餓死した死体がそこら辺に転がっている。荒んだ時代だ。これでは魔女狩りと騒ぐ気力すらなくなるか。


 魔物の活動も活発化しているみたいだし、これらを契機に小国の幾つかは地図上から消え去るかもな。・・・オイラにとって大事なのはご主人のみ。それ以外は些事なんだけどね。


 骨にこびりついた肉片をしゃぶりつくす幼女をじっと見る。さて、この幼女は本当にご主人の生まれ変わりなのだろうか?

 相変わらず漏れ出ている魔力圧は尋常じゃないが、所作や振る舞いに気品の欠片もないし、オイラを見ても特に反応なし。・・・自信がなくなってきた。

 前世があれば記憶のどこかに引っかかるものがあると思うんだが、その兆しすら皆無。赤の他人か。それともオイラみたいに前世の記憶を持ち越している方がイレギュラーなのか?


 しばらくは様子見した方がいいか。ご主人であれば、それでいい。だが、もし違うようなら旅を続けなければならない。オイラは慈善活動家ではなく、自己中心的な猫なのだから。


 ふと気付けば、思案に暮れていたオイラを幼女が見つめていた。そして、不意にその手を伸ばしてくる。何をする気だと若干身構えたが、悪意は感じない。とりあえずその場から動かず経過観察。いざとなれば手足の一、二本食い千切るだけだ。さあ、どこからでもかかって・・・幼女はおもむろにオイラの頭を撫でた。



 「・・・・・・・・・にゃ?」



 えっ、どういうこと?



 「にゃんこさん、ありがとう」



 礼を言われた。・・・うん、礼節は大事。それが仮に獣が相手だとしても。けど一つだけ言わせてくれ。そんな油まみれの手で撫でるなよ。オイラご自慢の毛並みが油でギトギトだ。

 しかし幼女の嬉しそうな顔を見ていると怒る気にもならない。・・・ん?あっ、ちょっ、お尻ポンポンしないで!力が・・・力がぬける~・・・・・・ごろんとへそ天を無様にさらす。

 幼女は容赦なく追撃して、お腹をわしゃわしゃとなでくりまわす始末。・・・うむ、苦しゅうない。



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