業火

 僕が魔法で生み出した業火は確実に山ほどもあった魔物を完全に呑み込み、その存在を抹消するかのような勢いで燃え盛っていく。


「え、えぇ……」


 そんな光景を前にして、この場にいるすべての冒険者たちがドン引いたような声を上げる。


「これが出来るなら私たちなんて要らなくない?何のために私たちを買ったの?一人でいくらでも稼げそうだけど」

 

 そして、自分の隣にいるクルスが呆れたようにこちらへと声をかけてくる。


「いや、出来るけどやりたくない時もあるじゃん?」


 出来はするのである。

 ただ、やりたくないのである。僕は。

 というか、お金を稼ぎたいのであればさっさと当主の座を奪還しているのだ。


「ご主人様。申し訳ありません。私たちが不甲斐ないばかりにこんなところまでご足労かけてしまって……」


 クルスと軽口を叩いていた僕の元へとトアがやってくる。


「いや、別にいいよ。そんな深刻なことでもないし」


「ただお前がサボりたいだけだもんな」


 そんなトアに返す僕の言葉に対して、クルスが再度軽口を告げる。


「……お前、あまりご主人様へと舐めた口を利くんじゃねぇよ?ぶちのめすぞ」


「「……ピッ」」


 だが、それに対するのトアの反応は苛烈であり、僕とクルスは揃って変な声を漏らす。

 えっ?待って?トア、怖くね……?

 きゅ、急にどした?


「そぉーだよ!ご主人さまは私たちを丁寧に扱ってくれているご主人さまなんだよ?ギャンブルしまくっているクルスにも優しいご主人さまなんて一人くらいに決まっているじゃん!」


「そ、そうだな……うん」


 すっごい。

 リスタがすごい癒し。

 何かクルスの方も浄化されそう。


「ま、まぁ……とりあえずはこの魔物に関しては問題なさそうだな」


 トアのドスの効いた声にビビり散らかしているクルスがちょっと声を震わせながら話を切り替える。


「いや、そんなことないわね」


 そんなクルスの言葉に返したのは僕ではなく、ずっと話に割り込んでくる機会を伺っていたカターナさんだ。


「えっ?そうなのか?」


 高名な冒険者であるカターナさんの発言力はかなり大きい。

 彼女の鶴の一声はこちらを会話を盗み聞きしていた冒険者たちまでもざわめき立たせる。


「……駄目か」


 ちょうどそのタイミングで。

 僕の業火を浴び続けていた山ほどの魔物が堪えきれなくなったのか、一瞬でその体が灰となって消えていく。


「……ッ!?」


 そして、そのタイミングで地面から再度、音もなく確実に僕が燃やし尽くしたはすの山なりの魔物がそのまま湧き上がってくる。


「だよねぇー」


 そんな魔物を前に僕は何の驚きもなく声を漏らし、周りを魔法で探知し始めるのだった。

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