占い屋さん
占い屋さんの開業を宣言した僕。
「おうおう」
そんな僕の元へと強面の男が近づいてくる。
「ここ最近。ちょっくら上位の冒険者たちに気に入られている魔道具店の店主がいる、ってのを聞いていたが、まさかこんなちんちくりんだとはなぁ」
強面の男は僕の前にあるテーブルへと肘をつきながらこちらをにらみこんでくる。
「俺はお前を信用なんてしてねぇからな?奴隷三人囲み、ガキ二人を家に連れ込んだお前がまともな人間であるわけがねぇ。評判に関してもどーせ、金で買ったんだろぉ?なぁ?」
「……」
「俺が化けの皮を剥いでやるよ」
「ふふっ」
僕は強面の男の挑発には乗らず、ただ余裕の表情で小さく笑みを浮かべる。
「はっ?余計なこと言わないでくれますか?私はご主人様に深い感謝の念を抱き、心より尊敬していますが?」
そんな僕とは対照的に、トアが強面の男の挑発に乗って、マジギレをかましながら言葉に殺意まで乗せ始める。
「まぁまぁ」
そんなトアを手で制した僕は強面の男の前に立つ。
「ここ最近、嫁が素っ気なくて寂しいから娼館に行ってみることを検討し始めたまことにスケベな男よ。まずは座りたまえ」
そして、不敵な笑みと共に僕は口を開く。
「おぉい!?何を言っていやがる!?」
そんな僕の言葉へと強面の男は驚愕しながら動揺し始める。
「どうしましたか?」
「て、適当ほざいているんじゃねぇぞぉ!?」
「はっはっは!ただの冗談だとも。それじゃあ、座ってよ」
僕は焦る強面の男を笑い飛ばしながら再度、椅子の方へと腰を下ろす。
「……クソっ」
そんな僕の前で強面の男も悪態をつきながら席につく。
「さぁ、何でも聞いてくれたまえ」
「……つい、一週間前によぉ。俺は娘がくれた指輪を元々占ってくれよ。俺の指輪の在処をよぉ。出来るものならな?」
一週間前に落とした小さな指輪の在処。
普通に考えれば見つけることなど不可能に近い指輪の在処を強面の男はにやにやとしながら聞き出してくる。
というかこれ、ちゃんと見つけてほしいやつだよね。
「それくらいたやすいことだよ」
「……ぁ?」
僕は水晶へと手を当て、指輪の在処を占ってやる。
「落ちている場所にしっかりと結界をかけて誰も取られないようにしてあるから安心してよ」
「……っ!?う、嘘だったら承知しねぇからな!別の置いて意味はないからなっ!」
「御託は良いからさっさと取りに行きなよ。料金は特別に君が指輪を手にして戻ってくるまで待ってあげるから」
「……っ!待っていろっ!」
僕の言葉を受け、強面の男は勢いよく立ち上がって冒険者ギルドから飛び出してくる。
「……来ないな、客」
その後、みんながあの強面の男が帰ってくるのを待っているのか、一向に自分の元へと客は来なかった。
えっ?大丈夫かな?ちゃんとあいつ帰ってくる?こなかったら最悪なんだけど。
「……」
そんな風にちょっとばかりドキドキしながら待っていた僕の耳に。
「おいっ!」
勢いよく冒険者ギルドの扉が開けられる音の方が飛び込んでくる。
「マジで……マジでありやがったっ!」
勢いよく扉を開けて冒険者ギルドへとやってきた強面の男の手には小さな指輪が乗せられていた。
「助かった!本当に助かった!なんとお礼をしていいのやら!まずは最初の態度を謝罪させてくれっ!」
指輪を無事に回収できた強面の男は僕の方へと頭を下げながら近づいてくる。
「奥さんが冷たくなっている理由は酔って娘の指輪を落としたことに起因するから、見つけたと言って彼女に見せ、落としたことを謝ると良いよ。夫婦円満にね」
そんな彼へと僕は優しく声をかけてやる。
ここまで元気に宣伝してくれれば十分だ。
「……っ!ほ、本当にありがてぇ!最初はすまなかった!じゃあ、俺はちょっと女房と話してくるっ!」
「いってらっしゃい」
夫婦仲が子供に与える影響というのはどんな教育よりもはるかに子供へと良い影響を与える。
早く仲良くなってもらわないとね。
「……だから、代金はあとでいいよ。うん、いいとも」
僕は代金も置かずに再び冒険者ギルドから消えていった強面の男を見送る。
「ほ、本当に占いなんて出来たんですね……」
「まったくだな。そんな魔法、初めて聞いたぜ」
「すごいねっ!」
そんな僕へとトアたち三人が口々に言葉を投げかけてくる。
「いや?別にそんな魔法はないけど」
そんな三人の言葉を僕はあっさりと否定する。
「えっ?」
僕がしたことはただのゴリ押しである。
指輪に関してはただ街全体に探知魔法をかけ、地面に落ちている小石一つ一つですら逃さずにすべてを一瞬で確認し、指輪を探し当てただけだ。
これのように、僕の行う占いは基本的にただの魔法によるゴリ押し一辺倒となる。
まったくもって占いではない。
だが、この一辺倒であっても問題なくうまく行く。
未来を占うのだって簡単だ。
こっちが自分の言ったとおりに勝手に未来を作ってしまえば、占い成功だ。
これで百発百中の最強占い師の爆誕である。
「客募集っ!なんでも占うよ!何なら人生相談でさえも受け入れるよ!」
何はともあれ、占い屋さんのデモは終わった。
僕はリスタたち三人との会話を早々に切り上げ、次なる客を募集するのだった。
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