トア
クーデターによって当主としての地位を追われ、領地から追放された僕が市井で生活を始めて早いことでもう半年。
ここまでの生活は順調であり、リスタたちからもたらされる利益を享受しながら魔道具店を営み、レーヌとミリアの二人を育てることが出来ていた。
そんな生活の中である日。
「……ご主人様。少しよろしいでしょうか?」
「うん、良いよ。何かな?」
僕はトアから話しかけられ、そちらの方に意識を向ける。
「少しばかり、お願い事があるのです」
「ん?トアが?どんなお願い事なの?」
本当にずっと、些細な頼みごとを連発するクルスであったり、ちょくちょく寂しいから一緒に寝てほしいなどといった可愛らしい頼みごとをされたりするが……トアから何かを頼まれるというのはこれが初めてかもしれない。
「……私の領地のことです」
「……あぁー」
僕はトアの言葉に納得と共に頷く。
トアの生家であるロロスト男爵家。
あそこの家の凋落ぶりというか、貧乏ぶりは凄まじい。
元々の主要産業として鉄鉱山が栄え、良質な鉄で富んでいたのだが、その肝心の鉄が枯渇。
それを機に主要産業がなくなってしまったロロスト男爵家は完全に財政崩壊。
何とか富まない土地で細々と農業を行いながら何とか生にしがみつくことだけの領地となっている。
そんな領地は、ちょっとした侯爵家で政変が起こって若き当主が台頭。
急速に力をつけていったことがロロスト男爵家のダイレクトアタックになってしまった。
僕が自分の領地の産業を守るためにいたるところで関税をかけたら、ロロスト男爵家が死んじゃったんだよね。
細々とロロスト男爵家が輸出していた屑鉄の売り先が完全になくなっちゃったようで……屑鉄なんてあまり売れるものじゃないのだが、僕の佞臣が自己の趣味であった屑鉄アートを作るために輸入していて、それがちょっぴり市井の方にも広がっていたから。
「本当に限界なようでして……どうやら、今年は凶作らしく」
「えっ?さらに?」
既に限界ギリギリの土壌の上で凶作になったの?そんなことある?
「どこからか買えないの?食料なら腐るくらい持っているところもあるでしょ」
「……お金が。私の領地では基本的にぶつぶつ交換による経済でなりたっておりますので、税の方も基本的に物です。そのために領内で一切のお金が出回っておらず、当然、他の領地から食料を買うこともできないのです」
「魔法で何とかできなかったの?」
「……私たちの力ではどうにも」
「そっかー」
「ですので……どうか!ご主人様の実力をお借りしたく。魔法の力で私たちの領地に恵みを与えてほしいのです」
「なるほどね」
僕はトアのお願いに理解を示す。
「雨を、私たちの領地に恵みの雨を降らせてくれないでしょうか?」
「いや、それじゃあ一時的だし……もっと良いのがあるよ。豊かな国、領地がやっている素晴らしい魔法がね。と、いうことでまずはとりあえずロロスト男爵家の領地に行こうか」
トアのお願いへと頷くどころかさらに上の提案を口にすると共に、僕は彼女にロロスト男爵家の領地に行こうと告げるのだった。
■■■■■
ロロスト男爵家の当主と自分だけで軽く会談を行い、自身がこれからやることの許可をもらってきた僕はそのまま、トアを連れて空へとやってきていた。
「あ、あわわわ」
ロロスト男爵領の上空。
そこで僕に抱えられているトアは体をわなわなと震わせている……どうやら、高いところは無理だったようだ。
「少しの時間で終わるから我慢してて」
「わ、わかりましたぁ!?」
「よし……それじゃあ、まずはスキャンから」
僕はロロスト男爵家の領地全体に探知魔法をかけ、領地の様相を把握していく。
「……道が少なすぎるでしょ」
領地の活気がゼロ。
道もなければ、人の行き来も全然感じられない。
水資源と言えば鉄の発掘作業のせいで禿山となったそこから流れている短く、細い川のみ。
森林等の自然は当然のようになく、土壌からの何の栄養素も感じられない。
「本当にひどい。こんなにも酷いのか……」
「……うぅ」
「まぁ、何とか出来ると思うけど」
僕は自身の魔力を高ぶらせ、魔法発動の準備をしていく。
「……んんっ」
魔道具も駆使して魔法を発動。
すると共に大地が揺れ始め、どんどん大きな亀裂が地面へと刻まれ始める。
「な、なん……」
天地創造……の遥かなる劣化版。
僕の魔法は大地そのものに変化を加えていく。
まずは禿山より流れる水の総量を無から増やしていく。
そして、土壌には大量の栄養素を加えていく。
これによって先程までは乾燥しきっていた不毛の大地に確実な彩りが芽生え、豊穣を与えられる。
「な、何なの……この魔法。土地が、変わった?」
「遥か高度な魔法のひとつであり、伝説上の魔法だよ。歴史に名を残す英傑のみが使える魔法だよ。例えば、僕の一族の開祖なんかはこの魔法を使ってうちの領地を富ませているんだよ。歴史が長く、豊穣の領地何かは大体過去の英傑が自分の領地をとませているよ。
「……こ、こんなの神の」
「……聞いている?」
僕は聞いているのかもわからないようなトアに対して自分の作った魔法を説明していくのだった。
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