繁盛

 オウガ率いる鋼鉄の剣を初めての客として迎え入れて以降、僕のお店の業績はうなぎのぼりとなっていた。

 その理由は単純明快。

 実はかなり高名だったオウガたちのパーティーが僕のお店を宣伝してくれたのだ。

 しっかりとした実力を持った魔道具職人が開いている店がある、と。


「ふんふんふーん」


 だが、そんな大盛況の中であっても僕は自分の研究を辞めるわけにはいかない……っ!


「あの、店主さん」


「はいはい」


 多くの魔道具が飾られている店の奥にある席へと腰掛けていた僕へと話しかけてくるお客さんの言葉を受けて視線を上げる。


「何でしょうか?」


 自分の前に立っている一人の少女。

 その子へと僕は疑問の声を投げかける。


「えっと……新規魔道具の制作の依頼をお願いしたいんですけど」


「新規魔道具の制作依頼であればあちらの魔道具からお願いします」


 お店に来るお客さんが増えてうれしい悲鳴ではあるが、それで自分の本懐である研究が疎かになってはならない。

 ということで、僕は商品検索、在庫確認、在庫切れの魔道具の追加注文、新規魔道具の制作依頼、会計。

 計五つのことを全自動でこなしてくれる魔道具を導入すると共に。

 それらの魔道具の使用方法を教えたり、買い物の相談に乗ったりするお助け用の人型魔道具までも設置することで、自分の業務削減に努めているのである。


「いえ、中々に文面では書きにくい内容となっておりまして」


「なるほど」


 おかげで、僕の業務としてはこうしてたまにやってくるレアケースへと対応するだけで済んでいる。

 日本とは違って邪魔な客が要れば問答無用で叩き出すことも容易に出来るので更に楽である。


「ぜひ、こうして店長さんと互いの認識をすり合わせしながら考えていきたいと思っている次第でありまして。予算はありますので、お願いできませんか?」


「……っ。それでは詳細についてお願いします」


 客として自分の前に立つ少女の懐から白金貨の詰まった袋が出てきたことに少しばかり面喰いながらも僕は店員として冷静に対応していく。


「ありがとうございます!え、えっとですね……」


 ぶっちゃけた話、あまりリスタたちが持ってきてくれる利益が必要ではなくなるほどに魔道具店のみで稼げている僕は研究に商売も要領よくうまくやりながら平和なひと時を楽しんでいるのだった。


「えっ……?本当にそんな感じの魔道具が必要なんですか?何のために使うんです?」


「あまり訳は言えないんですけど……どうか、聞いてほしいんです。お願いします。しっかりとお金のほどは払いますので」


「まぁ、お客様からの要望でありましたら答えますけど……」

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