初めての客
いつものように客のこない魔道具店で店番をしていた頃。
「やっているぅー?」
お店の扉を開け、意気揚々とクルスが中へと入ってくる。
「あれ?今日早くない……って、誰?後ろの」
お店の中へと入ってきたクルスの後ろ。
そこには見覚えのない武装した一団が存在していた。
「お客さん連れてきたよー。昨日、私が言っていた魔道具は作れた?」
「あぁ、作れたよ」
僕はクルスの言葉に頷き、つい先ほどまで制作していた魔道具を五つほど引き出しから取り出して、机の上へと乗せる。
この魔道具はある一定レベル以下の強さしか持たない魔物の接近を遠ざける魔法が込められている。
強力な魔物などには効かないという問題もあるが、それでもしっかりと低レベルの魔物は排除してくれるため、野営をする際などにはそこそこ役立ってくれるのではなかろうか。
「だってよ!」
僕の言葉を受け、クルスは自身の後ろにいた人たちへと声をかける。
「あ、あぁ……そうだな。あー、よし。少し良いだろうか?」
クルスの後ろにいた集団のうちの一人が僕の前へと出てきて口を開く。
「俺は冒険者ギルドに所属しているパーティー、鋼鉄の牙のパーティーをさせてもらっているオウガだ。よろしく頼む」
「はい、よろしくお願いします」
「んで、だ。今日、俺が来たのは魔道具に関することだ。とある依頼の関係で大量の低レベルの魔物を遠ざける魔道具を欲していてな。クルスに聞いたところ、うちの主人は魔道具作れる等を聞いてやってきたのだが……本当に、これは使えるのか?」
「あぁ、はい。使えますよ。精神干渉魔法がかけられていますので、基本的には低レベルの魔物を弾けるようになってます。ただ、強力な魔物から精神干渉を受けている場合などは別ですけど。負けちゃうんで、自分の魔道具の方が」
「……いや、その心配は要らない。本当に、効果はあるのか?」
「ありますよ?買っていきます?」
「……いくらだ?」
「うーん」
いくら、いくらかぁ……いくらにしよう。
金のこと何も決めていなかったな。
「あー、銀貨30枚でいいよ」
悩んだ末、僕は適当に答えを出す。
「はっ?銀貨30枚!?魔道具、か!?」
魔道具は基本的に高価なものである。
魔法について優れた教養を持った知識人が一流の技術力でもって作り出すのが魔道具なのである。
当然、この知識と技術の面を考えると、魔道具は飛躍的に高価になっていくだろう。
「初めてのお客さんだから、初回サービス」
だが、今回僕が提示した金額はただの材料費だけである。
ぶっちゃけ、一般に出回っている魔道具の値段とかわからなくて、適正価格がわからなかったのだ。
後で確認しておこう、うん。
「……マジか。だが、初回のサービスと言ってくれるのであればありがたく享受させてもらおう。効果が確認出来し次第、宣伝の方もさせてもらうし、俺たちの方もまた来る」
「ありがとうございますぅー。ひとつでいいですよね?」
「ひとつで問題なく機能しますよ」
五つも作ったが、機能としては一つもあれば十分である。
「それじゃあ、一つほど買っていこう」
「はーい。それでは銀貨30枚になります」
「これで頼む」
「ありがとうございましたー」
僕は銀貨30枚を受け取り、代わりに自分の魔道具を一つ渡す。
……おぉー、これが僕の初稼ぎ。あまりお金には頓着しないけど、これはちょっと感動してしまうかもしれない。うれしいな。自分の力でお金を稼ぐの。
「……私がせっかくつれてきたのに、大した利益にならなかったんだが」
「まぁ、いいよ。僕にはお財布があるし」
「お財布って私たちのことだよね!?くそぉぉぉおおおおおおおおおおおお!昨日の負けを取り返さなきゃいけねぇのにぃっ!」
「……主人に売り上げを奪われる奴隷の図ではあるが、こいつの場合はこれっぽちも同情できないな」
床に転がって悔しさをあらわにするクルスへとオウガは呆れながら口を開く。
「それではオウガ様。ご購入ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております。その他にも多くの優秀な魔道具がございますので、良かったら見て行ってください」
僕は床に這いつくばるクルスを無視して言葉を続ける。
「あぁ、また今度来よう。ちょっと俺たちも俺たちでやることがあるので今日のところはここで失礼する。今回のことは助かった。ありがとう」
「はい。どういたまして。それではまたよろしくお願いします」
自分の店から去っていくオウガを僕は見送る。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおお!金がっ!金がっ!金貨があれば!金貨があればぁ、私は勝てるはずなんだっ!負けを取り返せるという大きな自信が私にはあるっ!取り返させてくれぇぇぇぇ!たのむぅ!今日は、今日こそは勝てるんだ!運が私の方にやってきているんだ!負けるはずがない!勝てるんだ!」
「何言っていんだ、こいつ」
そして、地べたに這いつくばって無残にも声を上げているクルスを見下ろしながら僕は呆れた声を上げるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます