晩酌
盗賊団の掃討が終わってからの獣人の村。
トアとクルスが帰るための準備を進め、ノアが村長であるガイアと対話をしている中。
「……リスタ」
リスタは自身の母親であるスタナと二人。
向かいあって座っていた。
「獣人としての矜持は覚えていますか?」
「はいっ!受けた恩は必ず返す!」
「えぇ、そうです。それがあるからこそ、あなたを買った主人に対してどうすればいいかわかりますね?」
「はいっ!絶対に、私は恩返しをしてみせるわよ!」
「えぇ、そうですね。ですが、ちょっとだけ下世話な話をしましょうか」
「下世話?」
「えぇ……そうです。私たち獣人の立場は何時、消えてもおかしくないような立場です」
「……っ」
下世話な話。
その単語と共に切り出されたと思えない真面目で切実な話にリスタは息をのむ。
「そのため、我々は性急に力をつけると共に、味方を作る必要があります。そうでなければ私たち獣人は人類を相手に勝てなくなるでしょう。我々が獲物として狩っている小動物と同じように、我々獣人も人類から狩られるようになるはず」
「……狩ら、れる」
「えぇ。そうです。ですが、それを受け入れることなど出来るはずがありません。我々はそうならないようにするため、力を手にする必要があります。貴方には、その第一歩になってもらいたいのです」
「……そ、それはこの、村としての総、意ってこと?」
「いいえ。違います。村長も、主人もそこまで見ていないですし、見ようとしていないでしょう。ですから、これは私からの言葉です」
「……第一歩、何をすればいいの?」
「その前に一つ聞いていいかしら?」
「うん、何?」
「貴方。あのノアって子のことは好きかしら?」
「はひっ!?」
己の母の言葉を受け、リスタは一気に自分の表情を赤く染める。
「えっ?えっ?な、な、……いきなり何!?」
「どうかしら?好き?」
「……ず、ずるいと思うんだよ。あれだけカッコいい人が私を助けて、尽くしてくれたんだよ?そ、それで……何も思わないって方がぁ……」
悩みに悩みぬいた末、リスタはごにょごにょと言葉を濁らせながら答えを告げる。
「それならよかったわ。もう一度言うわね。私たちの矜持は受けた恩を必ず返すこと。受けた恩を返すため、貴方。彼に嫁入りしてきなさい。自分の人生を捧げるのよ」
「ふえっ!?」
「それで下世話な話に戻るわ。ノアを糧としてきて頂戴。彼を通して人類の力を知り、彼を獣人の味方に引き込んできて頂戴」
「えぇぇぇぇぇえええええええええええっ!?」
怒涛の言葉にリスタは困惑の声を上げる。
「り、利用するなんてそんな!よ、嫁入りとかの話にそんな単語を出すのはっ!」
「大丈夫よ。貴方が本当に彼を好いているなら。あの人なら、これくらいのことは受け入れてくれるだろうし」
リスタの母。
少しの邂逅と会話でノアという人間の根本に居座る冷徹な為政者との面を見透すスタナは動揺する己の娘の言葉へと飄々とした態度で言葉を返すのだった。
■■■■■
ノックされた部屋の扉。
「何?」
僕はそちらの方に視線を送ると共に口を開く。
「し、失礼するね……」
それを受けて部屋の扉を開けて入室してきたのはリスタであった。
「い、今……大丈夫、かな?」
「ん?あぁ……大丈夫だよ。考え事は終わったから。何か忘れ物でもした?」
「いや……そう、いうわけじゃないよ。二人には私を置いていくように頼んでて。そ、それでね?あの……ちょ、ちょっとノアへとお礼がしたくて」
「ん?あぁ、別に気にしなくていいのに」
「い、いや……でも、しないと、だからぁ。そ、それでお礼何だけどぉ……」
「うん、何?」
僕は極度の緊張状態にあるリスタを前に、疑問の感情を抱きながら彼女の続きの言葉を待つ。
「……そ、そのぉ、え、えっとぉ」
「んっ?」
「……こ、これからもよろしくねっ!?!?」
「うぅん?あぁ、そうだね」
「私が今回してもらった恩を返せるように奴隷として自分の一生を懸けてずっとそばにいて手助けし続けるから。それでリスタを買って良かった、あの時に村を救って良かったと思わせられるくらいには強くなって頑張るから、期待して待っていてほしいな。私も期待に沿えるよう頑張るから。そう、それで、そう!頑張るから!」
「あっ、うん」
早口で何かをごまかす様にまくし立てるリスタの言葉に僕は頷く。
「じゃ、じゃあ……その、そういうことだから!」
「あっ、待って」
僕は言いたいことだけ言い終えて部屋から飛び出していきそうなリスタを呼び止める。
「は、はひっ!?」
「僕の考え事も終わったし、一緒に晩酌でも如何?度数が低めのお酒をちょうど持っているんだよね」
自分に忠誠を誓ってくれると告げたリスタ。
そんな彼女と一緒に酒を嗜むのもいいだろう……当主であった時の僕は周りを己自ら労うなんて行為をしていなかったのだし。
「~~っ!は、はいっ!お供させてもらうねっ!」
「ありがとう。お酒は飲める?」
「嗜む程度なら経験も!強い方だと思うよ!私は!」
「それならよかった。それじゃあ、先に座ってて」
「はいっ!」
僕は己が座っていた椅子の前にあるテーブルの引き出しに入っていた酒瓶を取り出し、ベッドに腰掛けているリスタの隣へと自分も座るのだった。
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