後始末
今回の騒動における敵であった盗賊団は壊滅させられ、その頭領も捕らえた。
これで完全に問題はなくなったと言え、無事にリスタの村は守ることに成功したと言える。
というわけで、僕は奴隷たち三人を連れて元の街へと戻ってきていた。
「それにしても、本当に帰ってきて良かったのか?元の村の方に住まなくて」
「えぇ、そうですね。ご主人様も認めてくれていましたし……普通に家族と共に暮らすべきだったのではないでしょうか?……家族とは、良いものですよ、やはり」
「いや、私もいい歳だから、そろそろ自立しないとね!それに、今回のことで思ったんだよ。やっぱり、私たち獣人だっていつまでも森に引きこもってちゃいけないって。小さな世界で閉じこもっていたら、より大きな世界に住む人たちから生存競争で負けちゃうって。だから、私はより大きな世界を知るの……そのために、一番安全なのはやっぱりご主人様の隣じゃない?」
「おっ、結構たくましいな」
「……案外、あくどいことしますね」
「むぅー、あくどいって言わないでほしいなぁ。賢いって言って?それに、私はまだ何も恩返し出来ていないし。奴隷として買われて、これ以上ないほどに優しく扱ってもらって、その上で故郷まで救ってもらったんだよ?ここまでしてもらって、何もしないで元の村で暮らすなんてできないよ。獣人にだってプライドがあるんだよ」
「あー、それもそうだなぁ。ワンチャン、私の負債とかをノアに肩代わりしてくれるよう頼めないかなぁ?」
「調子乗るのもいい加減にしなさい」
街へと戻ってきた後、新しく取った少し大きめの宿で。
「三人とも」
色々と雑談を交わしている自分の後ろのリスタたち三人へと僕は声をかける。
「は、はいっ!?何?」
「んぅ?なんだ?」
「何でしょうか?」
「とりあえず、三人はお疲れ様会してきな」
僕は懐から金の入った袋をトアにわたしながら口を開く。
「えっ?ご主人さまはどうするの?」
「いや、僕はちょっと考えたいことあるから三人で行っておいで」
「……えっ」
「承知しました……二人とも行きますよ。考え事の邪魔をしてはなりません。それでは明日。またお疲れ様会をしましょうね」
「ん?あぁ、そうだね」
僕はトアの言葉に頷くと共に、彼女たちの方から視線を外す。
「それじゃあ行きますよ」
「何食べるかぁー」
「……」
……。
…………。
「はぁぁぁぁぁ」
三人が部屋から立ち去り、部屋の中に一人となった僕は深々とため息を吐く。
「……あの野郎」
自分の頭の中に反芻するのは頭領の方から聞き出した情報についてだ。
何と、あの頭領は僕の領地からやってきたというのだ。
「クーデターを起こすために無茶苦茶しすぎだろ……っ!」
頭領が盗賊団となり、獣人を襲うようになった理由は何と自分の妹だった。
どうやら、彼女はクーデターの為と言ってそこら辺の村から物資を略奪していたらしい。
あの頭領が元々暮らしていた村は、その略奪のせいでまともに暮らすことが出来なくなってしまったらしい。
困窮した村はとうとう故郷を捨てる決断を下し、老人はその場で死に、残った者たちは他の村や街に向かうか、盗賊になるかを選んだらしい。
これは、悲しいことに嘘じゃないだろう。
当時はあまり気にしていなかったが、確かに彼が語った時期には村がいくつか廃村になったという報告を受けているから。
「それに、戦力か」
獣人をあの頭領が襲っていたのにも妹が関わっている。
クーデターに必要な戦力を確保するため、何と獣人を無理やり奴隷にして自軍に加えていたらしい。
もう、本当に信じられないくらいの極悪非道ぶり。
「下手したら僕以上の圧政じゃねぇのか?あいつ……はぁー、何とかなってくれるといいのだが」
色々と不満だらけ……あれで領地の方を任せても大丈夫なのだろうか?
いや、流石に何もしなくとも問題なく自動で成長できる状況に僕がもっていたうちの領地を一瞬でダメにするということはありえないだろう。
あいつが色々とやらかして被害を出しても領地全体がつぶれるという状況にはならないはずだ。
少なくとも、あいつが勉強するだけの時間はあるでしょ。
「というか、動き的に部下を統率出来ていなさそうなんだよなぁ……冷静に考えてあの頭お花畑が略奪とかしそうにないのだけど」
ゲーム上で、うちの妹はヒロインである。
村から平然と略奪するような奴が大人気ゲームのヒロインになるわけがない。
メタ的な読みに、自分の人生を振り返ってもあの子が略奪行為に走るとは思えない。
「まぁ、良いや……すでに僕は関係者じゃないのだから」
こっちは追い出されたのだ。
何で、こっちが気にかける必要があるのだ。
僕を殺しに来たあいつが部下の統率が出来ていなかろうとも、こっちには関係ない。
せめてものということで、あの頭領とわずかに生き残っていた手勢に仕事を振り分けてやれば、もうこの一件については終わりでいいだろう。
「んっ?」
僕が過去のことを忘れるべく頭を振ると同時に、部屋の扉をノックする音が響き、自分はそちらの方に視線を送るのだった。
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