頭領

 僕の出した水龍。

 それが大穴もとい、盗賊団のアジトに与えた影響は甚大であった。


「ビショビショ……」


 盗賊団のアジトは完全に水に残され、あとにはビショビショになった洞窟だけが残っていた。


「全然敵いないな……死体すらないのだけど」


「んっ?あぁ、一か所にまとめるか」


 僕はクルスの言葉に頷く。


「あっ、そう」

 

 水龍を暴れさせた段階で敵は全員奥の壁の方へとたたきつけた後である。

 既にこのアジト内で敵が歩くということはありえないだろう。


「……えっ?こんな簡単ななんて初めてなんだけど。本当に私たち要らないじゃんっ!」


 ということで、ただただ歩いているだけの僕たちの中で、クルスが驚愕の声を上げる。


「いや、トアは馬車を進ませる用でクルスはリスタの護衛用だから。元々、戦闘面は僕がやるつもりだったからね。ちょくちょく任せたけど、面倒で」


 僕の勤労意欲がここまで下がることだけがちょっと自分の想定外だった。

 当主として働いているときの僕はちょっと手間をかけて全員捕縛し、罪を償わせると共に人材を再利用するからね。本当に僕も動かなくなったものだよ。


「……あれ?もしかして私ってば役立たず?」


「いや、君がいなかったらここに来られていないから。所詮、あの二人はリスタの願いを叶えるために買っただけだから……奴隷の使い道はおいおい考えるよ」


「……行き当たりばったりに、何の目的もなく買われたのか。私は……まぁ、楽だからいいけど」


「さすがは上級貴族ですね。お金の使い方が豪快です」


「っとと。そんなこと言っていたらついたよ」


 雑談しながら進んでいた僕はこの洞窟の中の最奥にあった巨大な鉄の扉へとたどり着く。


「おー、デカイな。これは、開けられるのか?」


「普通に魔法で開ければいいよ」


 クルスの言葉に対して、僕は一切迷うことなく魔法を発動。

 鉄の扉に向けて火球を叩きつけ、完全にそれを溶かしてみせる。


「わぁー、ごうか……ッ!」


 僕が魔法で鉄の扉をこじ開けたとほぼ同時に。

 中の方から簡素な装備ではなく、動きやすさを重視しながらもしっかりと自分の体を守れる装備を着こなした数人がこちらへと突撃してくる。


「無駄ァ!」


 そんな敵へといの一番に反応したのはクルスだった。

 迷うことなく迫り来る敵に向けて剣を一振り。

 豪快かつ素早い一刀は確実に突っ込んできた敵たちを両断してみせる。


「んなっ……!」


 そんな中でも、突っ込んできたうちのただ一人だけは運良くクルスの一撃から間一髪で避けることに成功する。


「えいっ!」


 だがしかし。


「……ぁ」


 クルスの攻撃を避けるの精一杯。

 無様な格好で何とか避けることだけに成功した形となった生き残った一人の首へと迷いなくリスタが短剣を差し込み、確実にその命を終わらせてみせる。


「ご苦労」


 無事に自分たちへと攻撃をしかけてきた敵を倒した二人へと当主の時のように労いの言葉をかけた後、僕は溶けた鉄の扉を乗り越えて中と入っていく。


「……っ」


 鉄の扉を乗り越えた先、そこにいるのは大柄な一人の大男である。

 まさしく巨大な盗賊団の頭領と呼ぶに相応しい威圧感を持っていた。


「……な、何者、なのだ」


 だが、そんな頭領でも顔面を蒼白にさせて冷や汗だらだらの状態では威圧感も、クソもないだろう。


「……ちょっと同情するわ。こんなの、どうしようもないよなぁ」

 

 こっちの陣営であるクルスが敵に同情している中でも、僕は頭領の方へと迷いなく進んでいく。


「らぁっ!」

 

 そんな僕に対して、意を決したであろう頭領が自分のそばに置いてあった大剣を握ってこちらへと突撃。

 そのまま勢いよく僕に向かって大剣を振り下ろす。


「んなっ!?」


 だが、そんな一振りで僕を倒せるわけがない。


「ど、どうなって……やがる?」


 頭領の手にあった大剣は僕の肩に当たると共に豆腐のように砕け散った。


「君が、ここの頭領だね?」


 こちらが行くよりも前に自分の方へとやってきてくれた頭領へと僕は疑問の声を上げる。


「いや、待って!?違うんだっ!」


「何が違うの?君はここの頭領だよね?」


「お、俺が獣人を標的にしたのにはれっきとした理由が……っ!」


「違う、違う。僕が聞きたいのは君がこの盗賊団の頭領であるか、どうか、だよ?それだけを答えればいい」


「……っ、っ、ち、違うっ!」


「ダウト。君が頭領のようだね」


「……は?」


 相手の発言の真偽を図る魔法なんていう便利な魔法はない。

 だが、僕は昔から自分の前にいる相手が本当のことを言っているのか、嘘を言っているのか、それを見分ける力を持っていた。

 僕が頭領へと近づきに行ったのは相手の発言の真偽を図るために至近距離である必要があったからだ。


「もう十分だよ。君は」


 今は頭領であることだけが聞ければよかった。


「とりあえず、君には聞きたいこといっぱいあるから……諸々含めてあとで聞くよ」


「ま、待ってくれ!違うんだ!お、俺は──」


 僕の言葉にあわてふためき、弁明の声を上げる頭領。


「拷問館」


 それを無視して僕は魔法を発動。


「ひぃあっ……っ!?」


 僕が影が大きく広がり、そのまま頭領を自分の影の世界のひとつ。

 拷問器具が立ち並ぶ文字通りの拷問館へと頭領をいざなうのだった。

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