盗賊

 村へとやってきた獣人の案内に従って森へと出てきた僕は案内に従って向かう途中で戦闘が起きている場所を探知し、一人で飛行魔法を用いて現場へと急行していた。


「ふぅーん……やっぱり何処かの盗賊団かな?」


 魔法を発動し、リスタたちと戦っていた武装集団の身柄を拘束してやった僕は彼らを観察しながら飛行魔法で上がっていた空から地上へと降りてくる。


「ご主人様っ!?」


「おぉ、リスタ。大丈夫だった?」


 自分の元へと駆け寄ってきたリスタの頭を撫でながら周りの状況把握を進めていく。


「んっ。どうやらしっかりとクルスとトアは活躍したみたいだね」


「……いや、そうだけど。こんな一瞬で制圧できるんだったら最初からついてきてくれればよかったのに」


「お褒め頂き光栄にございます……ですよね?クルス」


「えっ……?んっ、あぁ、うん。ありがとうございます」


「いや、無理に言う必要はないよ?」


 僕はクルスの言葉に苦笑しながら自分が魔法で拘束していた者たちへと近づいていく。

 簡素な防具を身に包むだけの彼らが貴族の兵力に見えるわけもなく、そればかりか大商人麾下の兵士にも見えない。

 となるとその他の候補としては犯罪組織か、盗賊団か……いや、盗賊団っぽいな。これは。


「ふんふんふーん」


 僕は自分の前に転がっている武装した男たちの身ぐるみを剝ぎながら頭を回していく。

 犯罪組織というのは都市部に勢力を持ち、禁止されている麻薬の売買や違法奴隷の売買、闇金などで儲けを出し、しっかりとした組織を作っている。

 その点、同じ犯罪を行う身でありながらも無秩序に武力一辺倒で後先考えずに略奪行為を繰り返す盗賊団とは一線を画す。


「と、なると……」


 目の前で転がっている面々の持ち物を見るに、相手は盗賊団だと思われる。

 なら、相手の本拠地も大したところになく、殲滅させられるだろう。


「あ、あれ……?」


 僕が自分の中で結論を下していた頃、ようやくになってガイアたち二人がこの場に到着する。


「も、もう終わっているのか?」


「あっ、敵は拘束しておきましたよ。彼らの処分に関しては任せます」


「えっ?あ、あぁ」


「よし、それじゃあ三人とも」


 ガイアが自分の言葉へとうなづいたのを確認した僕はリスタたちの方へと視線を向ける。


「相手の本拠地攻めに行こうか」


「えっ!?もう既に相手の本拠地がっ!?」


「えっ……?まだ、戦わせられるの?」


「承知致しました」


「ん?あぁ、そうだね」


 僕は不満を垂れるクルスは置いておいて、驚愕するリスタの言葉へと答える。


「多分だけど相手は盗賊団だね。ちょっくら、この場を遠くから観察するだけ観察して、そのまま逃げ帰っていった連中に僕は魔法でマーキングをつけているから」


「マーキングで、いずれわかるようになる、と?」


「いや、もう多分そうだろうな、って場所はわかっている」


「えっ?もう分かっているの?」


「うん、わかっている。後はみんなで相手を狩るだけの作業だよ」


「え、えぇ……」


「楽できる?」


「楽するのは僕」


「くぅー」


「……はぁー」


 僕がクルスと会話を交わし、トアがクルスの奴隷とは思えない態度を前にため息をついている中。


「ま、待ってくれ!」


 ガイアの方が僕たちへと口を開く。


「も、もう相手の、俺たちを苦しめ続けた存在の足取りを掴んだというのか!?」


「……まぁ」


 相手がどれだけ勢力を持っていようと、所詮はただの盗賊団である。

 相手のガバをつくなど簡単。

 ガバしかないような状態である……まぁ、そのガバをつくのは魔法が使えない獣人たちだと難しそうではあるが。

 いくら獣人が身体能力に長けていようと、相手が人海戦術で詰め寄せてきたら勝てないよね。


「この問題については任せてよ、サクサクっと終わらせてみせるから」


 今回の件は僕の想定の中で最も低い程度であったと言える。

 そんなに多くの時間をこの問題に割くつもりはなかった。


「いや、待ってくれ。俺も同行しよう」


「いや、別についてこなくていいよ。四人で十分だし。村長の方は村をまとめていてよ」


「……だが」


「いや、だがとかじゃなくてですね。自分たちだけで十分です」


 ちょっとわざわざ外部から人を入れたくない。

 別に戦力は足りているのだから、知ったる中の三人と一緒に敵の襲撃へと出かけた方がいい。


「……そう、か。俺は、足手まといか?」


「いや、純粋に過剰戦力。もう足りているから。人は。自分たちだけでいいって話」


 ガイアがどれだけの強さを持っているのかも知らないしね、僕は。


「……そうか、ならわかった」


「わかってくれたならよかったです」


 僕はガイアの言葉に頷いた後、リスタたちの方へと視線を戻す。


「それじゃあ、みんな。そろそろ出発しようか。どうせ僕がいるし、そんな気負う必要ないよ」


「う、うん!」


「承知しました!」


「よーし!それじゃあ、存分にサボれるってことか!」


「いや、基本的にサボるのは僕だから。お前は一生懸命働けよ?保険ね?僕は」


「えー」


 僕はクルスの言葉を咎めながら、彼女たちと共に相手の本拠地へと向かうのだった。

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