戦闘

 ノアが楽しく魔道具に熱狂していた頃。

 リスタ、トア、クルスの三人は獣人の兵士の連中と共に村周りの警備へと向かっていた。


「……あの人がいれば簡単に終わるんだろうけどなぁー」

 

「……クルス。ご主人様に仕事を強要するのは奴隷として正しいあり方とは言えませんよ。もとより我々は良い扱いをされているのですから。文句を言ってはダメですよ」


「いやー、でもさぁ」

 

「ご主人もご主人であるべきご主人像に沿っていないから!」


「……沿っていたら悲惨なことになりますよ。我々は。本当に、あのお方に買われて良かったです」


 森を歩く中、獣人についていく形でやってきたリスタたち三人は緊張感もなくだらだらと雑談を続ける。


「「「……」」」


 そんな彼女たちへと周りの獣人たちは迷惑そうな表情で見つめていた。


「……んっ?」


 だがそんな折、急にクルスが立ち止まって警戒心をあらわにする。


「どうしたの?」


「こちらを誰かが様子を伺っているねぇー。それに、だよ。ちょっくら人も集まってきているみたい」


「何だとっ!?」


 彼女たち一行に集まりつつある敵の存在。

 それに誰よりも早く気付いたのは呑気に雑談をしていたクルスであった。


「……あっ、敵が動き出した」


「んなっ!?」


 クルスの言葉で一行が立ち止まったことで自分たちの存在がバレていると悟った彼女たちを囲っていた多くの人影が一斉に動き出していた。


「来るよ」


 そして、彼女たちが襲撃を受けるのはそのすぐであった。

 

「……っ!?」


「クソっ!奴らっ!」

 

 森の中からわらわらと集まってきた人たち。

 簡素な防具に身を包むだけの武装集団を前にリスタは恐怖で少しばかり顔を青くし、周りの獣人たちも恐れをあらわにする。


「報告に行って」


 そんな中で、冷静を保っているクルスはすぐさま自分のそばにいた一人の獣人へと声をかける。


「は、はひっ!?」


「行かせるかっ!」


 クルスの言葉を受けて慌てて走り出した一人の獣人に向けて武装集団の一人がそれを止めるために動き出す。


「させませんよ?」


 だが、それをトアが魔法を使って牽制することで獣人をこの場から逃がすことに成功する。


「ちっ……まぁ、良い。とりあえずはこいつらを全滅させたらとりあえず今日のところは引くとするか」


 長らく獣人の村に対して攻撃を仕掛けていた歴戦の武装集団はすぐさま決断を下し、己たちの方針を固める。


「ふんふんふーん」


 とりあえず今日は少ない戦果で満足し、計画していた大規模攻撃は諦める。

 その方針を固めた武装集団に対し、クルスが意気揚々とたった一人で鼻歌を歌いながら近づいていく。


「ハッ!馬鹿な女がのこのこやってきやがっ───っ!」

 

 一歩、二歩、三歩。

 そこまでは軽い足取り。

 だが、四歩目からは違った。


「──ぁ?」


 四歩目で力強く地面を蹴ったクルスは爆発的な加速で武装集団の一人へと迫り、そのまま己の手に握られている武骨な剣でその首を跳ね飛ばす。


「まず一人」


 跳ね飛ばされた首が回転しながらしばしの間宙を舞い、地面に落ちる。


「……っ!?ん、なっ!?」


「て、てめぇっ!」


 それまでの間、一瞬で味方が殺されたという事実に思わず固まってしまっていた武装集団の面々が再起動して慌てて剣を構え始める。


「残念ー!もう遅いっ!」

 

 だが、その間にクルスは次なる一手の準備を終えていた。

 クルスは魔法を発動。

 その発動によってクルスを中心として僅かな範囲ではあるものの、強力な衝撃破が放たれて彼女の周りにいた武装集団たちはただの肉塊へと変えられる。


「クソっ!?」


「私のことも忘れないでほしいですね」


 そんなクルスを前に警戒心を高め、彼女ばかりに注意を向けるようになった武装集団へと横からトアが魔法を叩き込み、確実に武装集団の数を減らしていく。


「こいつらつぇぞっ!?」


 既に二十名近くいた武装集団はその数を一桁にまで減らしている。


「マジかよっ!?」


 それを受け、武装集団は守勢へと入って二人を抑え込む方針に転換する。


「……んー」


 そんな彼らへとクルスは斬りかかり、トアが魔法で攻撃を仕掛けるも、多勢に無勢。

 完全に守勢へと入った武装集団を二人で落とすのは流石に無理だった。

 クルスの剣は数人がかりで抑え込み、トアの方も数人とのにらみ合いを前に思うような形で動けなかった。


「……あっ!た、助けるよ!?」


 そんな状況を前にしてようやくリスタたちを初めとする獣人が動き出す。


「ご、ごめんっ!」


 いの一番に駆け出したリスタがクルスの援護に入り、一気に武装集団を崩しにかかる。


「……申し訳ない」


 そして、その他の獣人の兵士たちも続々と戦線に参加してこれまであった武装集団側の数の利を破壊していく。


「……ダメだ」


 だが、それはあまりにも遅かった。

 獣人たちが敵の襲撃に怯えて竦み、クルスとトアの活躍に呆然としている時間はあまりにも致命的だった。


「何を苦戦していやがるっ!」


「おうおうおう!」


 その間にその他の武装集団が集まってきてしまっていたのだ。


「……ゲッ。流石にこの数は」

 

 数としては最初の倍を超える。

 武装集団の数は五十人近くにのぼっていた。

 それを前にクルスが頬を引きつらせながら冷や汗を垂らす───。


「残念、時間切れ」


 その瞬間だった。

 上空より一つの声が響くのは。


「おわっ!?」


 武装集団五十名近く。

 それらすべてを縛り上げるような魔法が発動し、形勢を逆転するべく現れた武装集団は一瞬で全員が戦闘不能にされるのだった。

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