魔道具
村へとやってきた初日。
その日は簡単な調査で済ませ、晩飯はリスタの実家の方でお世話になった。
それだけではなく、寝床の方もお世話となり、四人全員でリスタの実家で一晩を明かすことになった。
「うぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!これは、これはすっごい!すごいなぁ。はぇー、えー、これはすごっ!」
そして、迎えた二日目。
そこで僕は昨日建てた計画なんて忘れて大興奮していた。
「なるほど……なるほどねぇ」
今、自分の前にあるのは一つの魔道具である。
魔道具とは、予め魔法の発動に必要な魔法陣が刻印されている代物である。
これさえあれば魔力を流すだけで魔法が使えるのだ。
魔法陣を描くというのはかなり高度な技術が必要されるものであり、それが必要とならない魔道具は平民階層に広く求められている。
「ふへへへ」
魔道具。
それは僕も馴染み深かかった。
傀儡としてすべての実権を奪われ、ただただ暇していた幼少期の僕は佞臣から権力を奪い返す暗躍の傍らで魔道具を弄って過ごしていた。
僕はもう魔道具には目がないと言える。自分で作るのも、人が作ったのを鑑賞するのも、全部が好きであると言える。
「それが何かわかるんです?」
魔道具の前で歓声を上げている僕へと自分のそばに立っていたリスタの母親であるスタナさんが疑問の声を投げかけてくる。
「えぇ、見ればわかりますよ」
村の中心部。
昨日、クルスがくつろいでいた集会所のようなところに置かれているテーブル。その内部。
そこに隠されるように設置されているこの魔道具。
「この村に近づこうとする人間を遠ざけるためのものですよね?」
これはこの村を守る上で最も重要なものと言えるだろう。
ガイアが語っていた『村に近づこうと思っても近づけなくする魔法』というのはこれのことだろう。
魔法の苦手な獣人が魔法とは……?と思っていたのだが、なるほど。魔道具を利用していたのだね。
「……ちょっ、テーブル邪魔だな。ここからじゃちょっと機構が全部見えない!」
テーブルから一部を露出させているだけのこの魔道具は肝心の魔法陣が刻まれている機構が一部しか見えていなかった。
「機構の、方を見て理解できるんですか?」
「そりゃまぁね。機構さえ見ればこれを再現することも可能な気がするんだけどぉ……」
「……なんと、まぁ」
多分だけど僕は貴族の中で最も魔道具に詳しい自信がある。
「本当に凄いのですね。やはり、ご貴族様だからでしょうか?」
「まぁ、そうだね。貴族生まれだからこそ得られた教育とかもやっぱり多いね」
僕はスタナさんの言葉に頷く。
「……そうですかぁ」
「くっ……なんとか見えないかなぁ?くぅ、こんないい魔道具が僕の前にあるのにぃ」
誰が作ったのか知らないが、この魔道具の価値はかなり高いと言えるだろう。
使っている材料もいいし、刻み込まれている魔法陣も、多分良い。
と言うよりこの魔道具がもたらす魔法の効果自体がやはり凄い。
「うぅん……素晴らしい」
見れば見るほど美しい。
本当にずっと見ていられる。
「ガイア様っ!!!」
僕がうっとりと魔道具を眺め、何とかその全容が把握出来ないかと試行錯誤していた中。
急に村へと大焦りしている獣人が飛び込んできて、必死の形相で声を上げる。
「……おや?」
僕がゆっくりとそちらの方に視線を向けている間にも村長であるガイアは機敏に動き、声を上げる獣人の方へと駆け寄っていく。
「どうした!?何があった!」
「敵の襲撃です!それも、これまで見た事ないほどに大規模な!」
「なんと……!」
「おっと」
もしかすると僕がこんなふうに魔道具を見てあぁだこうだ言っている余裕は無いのかもしれない。
「今はリスタとその連れが頑張ってくれているが……だが、それでも数が多すぎる!」
おっと、魔道具へと夢中になった僕の代わりに獣人たちによる辺りの散策へとリスタたちを同行させていたことは成功だったようだ。
「わかった!俺も直ぐに向かおう!」
「ありがとうございます!村長!」
「これは僕も行った方が良いやつかも」
というか、そもそも最初から僕もついていっていれば爆速で物事の方が解決した可能性も……。
ちょっと魔道具の方に興味がそそられて探索を放り投げてしまった僕は反省するべきなのかも……いや、僕が反省すべきところではない!今から、何とかすれば問題ない。
むしろこれは相手を釣り出すための罠だった。
よし、完璧。これで僕は悪くない。
「よし、では道案内を頼む!俺も現場に行こう」
「わかりました!今、ご案内します!」
「あっ、僕もついていきますね」
僕は村の方から出発しようとしているガイアたちへと声をかける。
「むっ……?君も来るのか?」
「リスタたちのご主人様は僕だよ?ねぇ、いいだろう?」
「まぁ、そうだな。よし、それでは行こうか。案内を頼む」
「あっ、はい。では……こちらです」
僕はガイアと、それに村へとやってきた獣人と一緒にリスタたちが戦っているという場所へと向かっていくのだった。
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