歓待
何をするにしてもやはり大事なのは情報である。
「……」
獣人の村の村長であったガイアとの会談を終えた後に僕は一人、周りの散策へと出かけていた。
「この跡地は獣人側が作り出したデコイかな?」
すでに焼け野原となっているが、元々としては一見獣人の村に見えたであろう場所を歩きながらここを襲撃仕掛けたであろう人たちの痕跡を探っていく。
「この感じから相手は貴族とかじゃなさそうだな」
既に襲撃を受けた後の場所であっても情報というのはかなり転がっている。
この地に残された痕跡がもたらす情報はかなり大きいと言える。
地面を転がっている置いたままで放置されているコップにはかなり高価な茶葉を用いた紅茶が入っていた痕跡があるものの、コップ自体が貴族とその部下の使うものじゃない。
このことから相手が貴族ではないことがわかる。
となると、相手は大商人や大きな勢力を持った傭兵団、一大勢力を持った犯罪組織。
もしくは輸送中の茶葉を強奪した盗賊団か。
「……ここら辺で起きた茶葉の強奪事件かぁ」
そういえば一件、そんな事件も一年くらい前に起きていたなぁ。
一旦はそれを前提として考えてみて動くのもありだな。
僕は自分がどう動くかを頭の中で組み立てていく。
「まっ、一旦帰るか」
そろそろ完全に陽がくれてしまう。
問題を解決するのは明日とかでいいだろう。
午前中に敵アジトの所在を見つけ出して、陽が暮れるよりも前にそれを壊滅させる。
これでいいだろう。
「あっちの方だよなぁー」
僕は獣人の村の方へと戻っていくのだった。
■■■■■
獣人の村の方に帰ってきていた僕。
「……何してんの?」
そんな僕は自分を待っていた光景を前に呆れながら口を開く。
「ふぇ……?」
獣人の村の方では、あくまで僕の奴隷という立場であるクルスが我が意を得たりと言わんばかりの様子でふんぞり返っていた。
村の中心部にある集会所のような場所で周りの獣人に葉っぱで自分を仰がせながら肩もマッサージさせ、出されたであろう飲み物に舌鼓を打っていた。
「本当に何をしているの?」
「いや、見ての通りだよ。私を歓待してくれるらしいからそれを受けている」
「まぁ、してくれるというなら仕方ないか」
「そうでしょぉー?」
「んで?他の二人は?」
「あの家」
僕の言葉を受け、クルスは一つの家を指し示す。
「あそこはリスタの実家なんだって。リスタは実家でくつろいでいて、トアの方は晩飯の準備をしているってよ!」
「いや、ならお前も手伝いなよ」
僕は迷うことなくクルスの肩を掴んでそのまま彼女を持ち上げて強引に立たせる。
「わわっ!?」
「うちの奴隷が迷惑をかけました」
「いやいや!うちの一族は受けた恩を必ず返すことを種族としての矜持としていますから。ちょっとクルスさんには力仕事を手伝ってもらったので……その恩を返しただけなのでお構いなく」
「あっ?そう。それなら良かった」
先ほどまでクルスを仰いでいた獣人の言葉に頷く。
「ほぉーら!私だって無理強いしているわけじゃないんだよ!それなのに私ばかりが責められるなんて間違っている!」
「でも、トアが手伝いをしている間にのんびりとしているのは問題だろ。それに、何よりも僕が働いている間にもサボっていたのが大罪だね、うん。なんで主人である僕が働いているのに休んでいるの?おかしくない?」
「むぅー!別にそれくらいいいじゃないかっ!奴隷である私にだって休ませてくれ!」
「却下っ!それじゃあ、行くからね」
「あーん」
僕はクルスをを引きずってリスタの実家だという家の方へと向かうのだった。
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