村
そんなこんなでやってきたリスタが生まれ育った獣人の住まう村。
そこは鬱蒼とした森の片隅に作られた竪穴式で作られた素朴な家が立ち並ぶ小さな場所であった。
パッと見た感じ、村は無傷であるように見え、何者かの襲撃を受けているとは感じられない。
「ようこそ、我が村へ」
村を見渡してそのような感想を抱いた僕へと一人の獣人が近づいてくる。
その人物はかなり大柄で筋肉隆々の男だった。
「私はこの村の村長を務めているガイアと言う。何も無い辺鄙な村であるが、ゆっくりしていって欲しい」
「あぁ、ありがとうございます。ゆっくりさせてもらいますよ」
僕はこちらへと頭を下げる村長ことガイアに応答する。
「リスタの方から今、村が何者かより攻撃を受けているとの話を聞いているんですが……今のところ村は大丈夫そうですね。まだ、村の所在地は敵に察知されていないということでしょうか?」
「あぁ、そうだ。我々の村には外の人間が村へと来られないよう、村に近づこうと思っても近づけなくする魔法が発動しており、今のところは村の所在を隠せている……君たちの一行は何故か、村へと一直線に近づいていたが」
「……そうですか」
僕に関しては自分へと干渉してくる魔法を基本的に無効化出来るようにしているからだろう。
それが奴隷である周りにも広がったのかな?
「それで、結局のところ敵が何者であるかは把握出来たのでしょうか?」
「いや……それは恥ずかしながら見つけることが出来ておらず……相手が武装した人間の集団ということしか」
「そうですか」
絞り込みが人間の集団ってことだけじゃ何もわかっていないのと同じだな。
「とりあえず、立ち話も何だ。まずは私の家へと上がってくれ」
「あぁ、ありがとうございます」
ガイアの言葉にうなづいた僕は家族との再会ではしゃいでいるリスタを置き、トアとクレアの二人を連れて村長の家へと入っていく。
「ささ、座って」
「……はい」
椅子や座布団等は見つからなかったので僕は普通に地べたへと腰を下ろす。
そして、自分の後に対面の位置へとガイアが腰を下ろす。
「それじゃあ、早速で申し訳ない。だが、君の目的について教えてはくれないだろうか?なぜ、我々獣人の味方をしてくれるというのだ?そこの女士の方から君がやんごとなき身分であることも聞いたのだが」
「まぁ……一応やんごとなき身分ではありますけど、そうですね。目的、ですか……」
「あぁ、そうだ」
「……クエスト、ですかね?」
「クエスト?」
あっ、これは通じないのか。
前世の言葉が通じる言葉と通じない言葉のラインが難しいな。
「えっと、ですね。たまたま自分の門出に悲鳴を上げている女の子がいました。それを縁起悪いと感じた僕は縁起を良くするために女の子を助けました。そして、その女の子がたまたま困っていました。ただそれだけです」
「……つまり?」
「ただの暇つぶしです。仕事がなくて暇だった自分のところにたまたま厄介ごとが舞い込んできた……それだけです。たまたまちょうどよくやることが出来たという話なのです」
僕がリスタを助ける理由。
一番大きいのは暇つぶしだ。僕が自分のやりたいことを見つけるまでの。
「な、なるほど……だが、だがだ。我々は獣人なのだ。いくら暇でやることがなかったとしても、我らのために動く、というのか?」
「変わりませんよ」
僕はガイアの言葉へと簡潔に答える。
「人間も、奴隷も、獣人も、高位の貴族として生まれた僕からしてみればそのすべてが下です。貴方もわざわざ蟻の強弱なんて気にしないでしょう?それと一緒です。獣人だろうが特に関係ないです」
「……っ」
今の僕さ前世で培った記憶に教養、そして今世で培った記憶に教育が入り交じった複雑な状態となっている。
前世の考えを元にガイアの言葉へと答えるなら、貴族も平民も奴隷も獣人も、全員が等しく平等であると答えるのが正しいだろう。
だが、今の僕には貴族として育てられた当然の常識がある。
僕としてはどちらかと言うと今世の記憶や教養の方に精神は引っ張られていた。
故に、ガイアへの答えはこうなるのだ。
「まぁ、僕についてはそこまで深く考えないでください。僕自身が深く考えてここに立っていませんので」
「そう、か……」
「えぇ、そうです。他者の庭で気まぐれに遊ぶのは貴族の悪い嗜みですので……受け流してくれると助かります」
趣味悪い話だが、貴族は偉いのだ。
己の趣味趣向で勝手に人の命がかかっているような場所で戯れ出すのだ。
危害を加えない限りは笑って許して欲しいな。
僕はちゃんとリスタのお願いは叶えるつもりだからね。
「ふぅー、了承した。君が嘘を言っているようには見えなかったしな。なんのためにせよ、手助けは助かる。今後とも、どうかよろしく頼む」
僕の話を受け、力を借りることを決意したであろうガイアはこちらへと片手を差し出しながら口を開く。
「はい、よろしくお願いしますね」
そして、僕はその手を掴んで握手を交わし、笑顔を見せるのだった。
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