獣人
基本的にリスタが頑張り、時折耐え切れなくなったら僕が動くという形で進んだ村へと向かう道中。
「ようやくついたぁー」
そんな道中を過ごすこと数時間。
もうすぐで日が陰るという時間となって僕たち一行はリスタの村へとついていた。
「今、襲撃を受けているわけでもなさそうだな」
パッと周りを魔法で確認した感じ、リスタの村の敵となりそうな存在は確認できなかった。
「……問題は自分たちを囲んでいる獣人たちの方だね」
だが、僕たちの敵となりそうな人ならいっぱいいた。
それはリスタの村の人たちである。今、僕たちの馬車は多くの獣人に囲まれていた。
リスタのナビに付き従って道なき森林を突き進んでいった先で僕たちへとどんどん獣人が近づいてきていたのだ。
「えっ!?問題……?」
「うん、今にもこちらへと襲い掛かってきそうな殺意を振りまいているよ。周りの獣人たちは」
「嘘……!?歓迎の出迎えじゃなかったのっ!?」
「うん、全然違うっぽいよ」
こちらに向けられているのは明らかな敵意であった。
「ちょっと私がみんなにアピールしてくるっ!」
僕の言葉を聞いたリスタは慌てて窓から飛び出して馬車の屋根の上へとのぼって自分がいることをアピールし始める。
「……っ!?リスタっ!!!」
「あっ、おいっ!」
それを受け、木の上からずいぶんとリスタに似ている一人の女性が降ってくる。
恐らくはあれがリスタの母親なのだろう。
「お母さんっ!」
「リスタっ!?リスタなの!?」
木から降りてきた女性を見てリスタが喜色の声をあげ、それに返答するかのように女性の方も喜色の声を上げる。
「……ちょっと止めますね」
それを受けてトアが馬車の進行を止めさせる。
「うん、それでいいよ。あとはリスタが何とかするでしょ……あぁ、というか、細かな交渉はトアに任せた。ちょっといいところなんだよ」
僕はトアの行動を容認するばかりか、そのまま彼女に交渉事を丸投げして読書を続ける。
「承知しました」
「うわぁー、本当に動かないつもりだ」
せっかく奴隷がいるのだから使ってこそでしょう。
しっかりと飯も上げて休憩時間も上げているのだから僕はしっかりとホワイトだと言える。
「無事だったの?」
「いや、奴隷として売られたけど、買ってくれた人が優しくて!何もされていないよ!」
「ほんと……!それなら、それなら良かった……体も無事なようだし。本当に、良かった」
「それで?この村にはどうして帰ってきたのだ……?まさか、購入者が獣人を故郷へと届けてくれた、とでも言うのか?わざわざ自分で買った奴隷を使うのではなく故郷に戻す……と?」
「いや!私たちの手助けをしてくれるようにお願いしたから!それで了承してくれたの!私を買ったすごい人は村を守るのを手伝ってくれるんだって!私は奴隷のままだけど……それでも強力な援軍。これでも村も守れると思う。もう、誰も殺されなくて済む!」
「……それは、本当なのか?騙されていないか?そいつも奴らの一味なのでは」
「いえ、おそらくは大丈夫だと思いますよ」
「何だ?君は」
「申し遅れました。私はこの国の男爵家が一つの三女にございます」
「……君がこの一行のトップか。私たち獣人に、何の用だ」
「いえ、私がトップではございません。あの馬車の中にはもっとすごい人が控えていらっしゃいますので」
「……男爵家よりかっ!?ますます何のつもりだ……?」
「……そ、それは私にも少し。ですが、悪さを企んでいるわけではないでしょう。あのお方でしたらわざわざ自ら出向くことないでしょうから。それに、本当にあのお方がこの地で悪さをするのでしたら正式におしまいにございます」
「……どれほど、なのだ?」
「私もそこまでわかっているわけではないのですが……作法から見て伯爵家以上であることは確実だと思います。伯爵家の軍勢に勝てますか?」
「はく、しゃくけ……っ」
「絶句するのも当然でしょう。ですが、逆にこうも考えてください。伯爵家以上の生まれである御仁が助けになってくれる可能性があるのだと」
「そうだよ!ノアは私たちを助けてくれるって言っていたよ?それに、獣人である私が呼び捨てにしても怒らないんだ!この事実は大きいよ」
「……なんと」
「あまり、待たせるのもよろしくありません。村の方へと入っていいでしょうか?」
「むっ……すぅ、はぁー。そうだな。お越しいただけるのであればお越しいただこう」
「その言葉が聞けて安心しました。それでは私たちはこれからも進ませていただきますね。戻りましょう、リスタ」
「あっ、うん」
「……あぁ、よろしく頼む」
僕が魔導書を読み、特に役立たないクルスが足をプラプラさせている間にも交渉は順調に進んでいっていた。
「お待たせしました。それでは出発いたします」
そして、しっかりと交渉を終えたトアとリスタが戻ってくる。
「ご苦労」
「ありがたき言葉です。それでは出発いたします」
トアが御者へと座って馬を操り始めたことで再び、馬車が動き出すのだった。
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