出発
奴隷を新たに買ったその次の日。
早速僕たちはリスタの村に向かうための準備をしていた。
「はい、終わり」
とはいえ、準備と言ってもやることと言えば荷物を馬車の中に乗せるだけなのですぐに出発できるのだが。
「うし。それじゃあ、馬車の運転はトアに任せたよ」
立派な馬が引く馬車の中へと一番乗りで乗り込んだ僕は御者台をトアの方に任せる。
「はい。お任せを」
「それで馬車の方に襲撃してきた魔物たちの対処はほか二人で何とかしてね」
トアが頷いて御者台に乗ったことを確認した僕はそのまま自分に続いて馬車の中に入ってくるリスタとクルスの二人に魔物の対処を任せる。
「うん!ご主人さま。私の力を見ててほしいな。私がちゃんと年相応に活躍できるってことを見せてあげるから」
「いいけど……その間、ノアは何をするの?」
「何もしないけど?」
「えっ?ならノアも私たちの手伝いをしてくれてもいいじゃん」
「嫌だよ。働きたくないもん」
当主という責任ある立場から逸れてもう三日目。
僕の中にあった労働意欲はどんどん薄れていっていた。
「僕は馬車の中で読みたい本を読んでいるから、雑事は任せたよ。そのための奴隷なんだから。君たちが働かないと僕が奴隷を買った意味がなくなってしまう」
「えー、ノアも働いてよー。でもまぁ、私も奴隷だから上には従うけどねぇー?」
「うん、従っておいて。それじゃあ、トア。出発して」
「はい、承知しました」
僕の言葉にトアが頷いて馬を歩かせたことでようやく、自分たちはこの街を出発してリスタの村へと向かうのだった。
■■■■■
街から村へと向かう道中。
「思ったよりも多いなぁー」
「そう、だね!結構多い!」
僕たちの乗る馬車は想像以上に魔物からの攻撃を受けていた。
「少し停めましょうか!?」
「いやぁー、まだ平気かなぁ?」
「……いや、クルスは戦ってないよね?主に戦っているの私だよね?」
「近距離戦しか私は基本的にできないし……一応投石はしているじゃんかー」
「むぅー!私は結構頑張っているんだよォ!?」
馬車へと近づいてくる魔物の対処。
それは主にリスタが一生懸命頑張っていた。
クルスは近距離戦が主で、トアは馬の操作に忙しい。必然的にメイン火力がリスタの方に寄っていたのだ。
「リスタ、停めますか?」
そんな中で、トアはクルスの言葉を無視してリスタへと疑問の声をあげる。
「あー、ちょっと………止めて欲しいかもしれない」
そして、リスタがトアの言葉に同意する。
「あー、そうだな」
そんなタイミングで僕が口を開く。
「僕が全滅させるから停めなくていいよ」
自分がうちの領地から持ち出してきたずっと興味のあった数冊の本のうち一冊を読んでいた僕は視線を本から上げて、全員へと声をかける。
「……全部で十二か。これくらいならさほど問題は無いな。吹き飛べ」
僕は指を弾き、魔法を発動。
「はへっ!?」
魔物一体、一体の前に魔法陣が展開されると共にその魔法陣から閃光が煌めいて全ての魔物を一瞬で焼き焦がす。
「うっそー」
「こんなに強いの……?」
「……これが、本当の貴族の」
「これで終わり。さっ、進もうか」
魔物を無事に全滅させた僕は再度、自分の視線を本へと戻す。
「……いや、それだけ強いなら最初から手伝ってくれれば良くない?」
思わずと言った形でクルスが漏らした切実な言葉を僕は聞かなかったことにするのだった。
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