自己紹介
僕は奴隷商人のところから新しく買ってきた二人の奴隷に元いたリスタを連れて元の宿の方へと戻ってきていた。
「さて、それではまずは君たちの自己紹介から聞いていこうか。まず、君」
宿の方につれてきた奴隷二人。
そのうちの一人であるロロスト男爵家の娘へと話を振る。
「は、はい……私はトア・ロロスト。ロロスト男爵家の三女として生まれた一応元貴族です」
僕の言葉を受け、ロロスト男爵家の娘ことトアが緊張で体を震わせながら己の名前を告げる。
「……君は、そう。確か……あれだ。学問の方でそこそこの成績を残していたよな?我が国の初等教育で優秀な成績であったと記憶している」
我が国には貴族限定ではあるが、しっかりと国が主導する初等教育と中等教育が設けられている。
自分が途中で領地に呼び戻されるまで通っていた初等教育学校の一個上にトアがいたはずである。
「……っ!?私のことを御存知なのですか?」
「これでも僕は元貴族だからな」
「……事情はお聞きしないようにいたします」
「別に大したことじゃないけど……まぁ、別に聞かなくていいよ」
いちいち説明するのも面倒くさい。
「……んで?君か」
トアについてはある程度知っているのでそんなガッツリ聞かなくともよい。
とりあえず自分が気にかなければならないのはもう一人の奴隷であろう。
「んぁ?」
奴隷商人が問題児だと話していた奴隷。
リスタのしっぽをせっせと弄って遊んでいた少女の方へと僕は視線を向ける。
「名前と経歴。そして、奴隷に落ちた理由を教えて」
「あっ!はい!私はクルス。ただの平民です。貧民生まれの冒険者で、結構腕っぷしはあるつもりです!奴隷に落ちた理由は賭博にハマって巨額の負債を出して借金を作りに作った結果です!」
「なるほど」
確かに問題児やな。
「できればこれからも賭博の方をさせていただけると……」
「おっ?命をチップにして僕の機嫌を損なうか損なわないかのギャンブルやってみる?」
「あっ、ごめんなさい……」
僕の言葉を受けて一気にクルスの勢いが沈静化させる。
「わかればいいのだよ、わかれば」
僕はそんな彼女の態度に頷く。
「クルスの戦闘スタイルは基本的に剣を持っての近距離スタイル」
「はなっ!?」
「何でそれをっ!?」
「見りゃわかる。あまり気にするな。それでトアの方が魔法を得意とする遠距離。リスタが身軽な斥候。これであっているよな」
「はい。問題ありません」
「そうだね。私は色々なことが器用に出来るよ!」
「うん、良い感じのバランスだな」
戦闘時におけるバランスを考えるのであれば絶好の状態と言えるな。
程よくわかれている。
前線が足りないような気もするが、まぁ……気のせいだろう。最悪僕が手助けすれば解決だろう。
「ご主人様は何が得意なの?」
「何でも」
「す、すごい自信だなぁ。本当に大丈夫なの?あっ、えっと……」
リスタの言葉に力強い言葉で返した僕へとクルスが半ば呆れながら言葉を上げると共に、自分の呼び方について口をどもらせる。
「あぁ、僕の名前はノアだよ。自分については好きに呼んでくれ」
「じゃあ、ノアっ!」
「何を言っているのですかっ!?」
僕の言葉を受けて迷いなく呼び捨てを選択したクルスへとトアが驚愕に目を見開きながらツッコミの声を入れる。
「えっ?何?だって好きなように呼んでくれていったからそのようにしたまでだよ?」
「いや、ですが、それでも奴隷として最低限の対応というものがあるでしょう……っ!」
「でも、だって良いって……ノアが」
「もう、どうなっているのですか。それにあのリスタ、とかいう獣人も奴隷のはずですよね?それなのに距離も近いし、口調も……」
「まぁ、別に気にしなくていいよ」
奴隷としての立場について説いているトアへと僕は口を開く。
「そこら辺を気にするほど僕の心は狭くないよ」
「ほぉらーっ!」
そんな僕の言葉を受け、クルスが我が意を得たりと言わんばかりに口を開く。
「いや、これに関してはご主人様が異様なまでに寛大なだけですよ」
それを受けるトアは呆れた様子を見せながら声を漏らす。
「……えっ?これまでの私の態度は模範的な奴隷じゃなかったの?」
そして、そのそばでリスタがひそかに驚愕していた。
「いや、リスタは気にすることないよ」
「ご主人様がそう言うならそれでいいや!」
そんな彼女へと告げた僕の言葉を受けてリスタは満足げに頷く。
「なんで私がおかしいみたいな感じになるんですが……」
我が道を行く奴隷たち二人を前に、奴隷として主人の機嫌を損ねないよう必死に頑張っているトアが悲し気な表情で言葉を漏らす。
「さて、それじゃあ君たちにこれからの方針について語っていこうか」
それを無視して僕は話を前へと進めていく。
「まず、僕たちはこれから何者かからの襲撃を受けているリスタの村を助けに行くこととなる。向かうための馬車や食料等もすでに整えているので、明日から早速出立するつもりだからそのつもりで」
話を進めると言っても話す内容は少ない。
僕は淡々とすでに決定していることをみんなへと共有するのだった。
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