準備
リスタの体を洗い、その後は夜ご飯を食べて一晩を硬いベッドの上で明かして次の日の朝。
「僕は考えました」
顔を洗ってようやく寝ぼけ眼を覚ましたリスタへと唐突に声をかける。
「えっ……?」
そんないきなりの僕の言葉を受け、リスタが困惑の声を上げる。
「昨晩、自分がこれからどうして行きたいかを」
だが、それを気にせず僕は言葉を続ける。
「えっ……?あ、あの、私の村を助けてくれるんじゃ……」
「あぁ、それはもちろんするよ?でも、助けたあとも僕の人生は続くわけでその後に何をしたいか、それを僕は考えたの」
「あっ、なるほど」
元々抱いていた僕の人生設計は完全に崩壊し、当主としての立場は完全に無くなったからね。
新しい自分の人生について考える必要がある。
そう!自分について、この僕が第一優先で考えるのである。
「それで考えて考え抜いた末、結局何も出て来なかった訳で」
「えっ?なんで?」
「いや、その、本気で理解できないみたいな目でこっち見るの辞めて?」
「あっ、ごめんなさい……」
「……」
いや、仕方ないじゃん。
こちとら八歳から自分が死ぬ可能性もある中で当主としての職務を全うするために全てを賭してきたわけで、今更いきなり自由を与えられてもその扱い方には戸惑ってしまう。
これから、そう。
これからゆっくりと考えていくからいいのだ。
「で、でもさ!一応考えついたこともあるんだよ!」
「えっ?なになに?」
「いや、お金の心配はしたくないから不労所得欲しいなって」
「最悪の帰着っ!?」
「だから、奴隷を買い漁ってそいつらに働いてもらおうかと思うんだよね」
「本当の本当に最悪だったッ!?」
僕の答えを聞いたリスタは驚愕の表情のまま固まる。
「いや、これはリスタのためでもあるんだよ?」
「……?」
「村を助けると言えど、二人じゃキツイでしょ。奴隷を買って人手を集め、村の方を助けるんだよ」
「お、おぉ!そっか!なるほど!それじゃあ早く奴隷買いに行こ!奴隷!」
奴隷を買いに行こうとノリノリの少女……絵面は最悪だな。
「うん、ということでいこうか」
「はいっ!」
まぁ、それはそれとして、僕はリスタと共に奴隷を買うため、宿の方を出発するのだった。
■■■■■
場所を宿の方から移してリスタを買った奴隷商会。
「たのもー!」
そこへとやってきた僕は元気よく店の扉を開ける。
「あっ!これはこれはどうも……またお越し下さって」
そんな僕へと奴隷商人はすぐさま反応してこちらへと声をかけてくる。
「うん、また来たよ。今日もちょっと奴隷を買いたくてね」
「おぉー、ありがとうございます。それではこちらの方に」
奴隷商人は僕へと頭を下げながら、一つの部屋へとリスタと共に案内してくれる。
「そちらの席へとお座り下さい」
「はーい」
「……」
奴隷商人の言葉を受けて僕とリスタは大きなソファへと腰掛ける。
「それで、本日の希望はどのような程でしょうか?」
「まずは馬車の運転や炊事なども出来る便利な奴が欲しい。それで、後は戦えるやつ。とりあえずその二人ほど見繕って欲しい」
「なるほど……一人目はある程度戦えるやつの方が?」
「あぁ、出来るだけそれでお願いしたいなある程度はこちらで教育するが、最初からある程度戦える方がいいな」
「承知しました。それでは候補の程を見繕ってきます」
「うん、よろしく」
僕は奴隷商人の言葉に頷き、彼が候補を見繕ってくるのを待つ。
それからしばらく、奴隷商人は女の奴隷を五人ほど連れてくる。
「それではまず紹介の方から、こちらは私のイチオシの奴隷!最初の要求にぴったりの人材になります。元貴族でありながらも乗馬や炊事などの雑用に長け、戦闘も可能です」
「ほう……元貴族か」
「はい、ロロスト男爵家の人間にございます」
「あー、あそこか」
金に困っていたあそこは自分の娘を売ったのか……いや、凄いことしたな。
「まずその子は買おう」
ロロスト男爵家が困窮した理由の遠因の遠因の遠因くらいに僕が存在している。
手を差し伸べるのも良きだろう。
「値段は?」
「貴族でありますから……金貨100枚ほど」
「よし、買おう」
「ありがとうございます。それで残りの子達は戦えるものたちであります。うちのよりすぐりを選んでまいりました」
「ふむ……」
僕は自分の前にいる四人を眺める。
「そいつで」
そして、僕はその中から一人を指さして告げる。
「こ、こいつですか……あまりオススメは致しませんが、問題が少々ございまして」
「別に構わん。彼女が一番強いからその子で。いくら?」
「金貨10枚ほど……」
「よし、買った」
僕は懐から金の入った袋を取り出し、金貨100枚分の価値がある白金貨1枚と金貨10枚を取り出して渡す。
……結構減ったな、金。
残ったの白金貨ばかりでちょっと使いにくいのだけと……。
「それじゃあ、契約書にサインをよろしくお願いします」
「ん?あぁ、わかった」
僕は奴隷商人が差し出してくる契約書を2枚受け取り、署名欄にサインをしていくのだった。
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