奴隷販売

 悲鳴を上げている少女とそれを叩く奴隷商人。


「少し良いか、奴隷商人」


 その二人組へと近づいた僕は早速口を開いて声をかける。


「……何かな?」


 わぁ……新鮮な反応。


「それに何をしているのかと思ってな」


 僕は明確な悪意を目に見える形で出してきた奴隷商人に新鮮さを感じながら疑問の声を上げる。


「ただの懲罰だとも。こいつが商談の場で客を相手に粗相をしおってな。客に嚙みついたのだ。おかげで商談がすべてパーっ!こいつのせいでわしがどれだけの損害を負ったかっ!」


「あぁぁぁ……っ!?」


「わぁ……すごいガッツ」


 僕の前で振るわれる鞭に少女から上がる悲鳴。

 それを前に僕は何とも言えない声をあげる。


「わかったならさっさと去るがよい」


「いや、そういうわけじゃない。せっかくの晴れ舞台。僕の旅路に女児の悲鳴など聞きたくはない」


「……なんじゃ?その生意気な言葉は。おぬしが何と言おうとわしはやめんぞ。これはわしに許された権利であり、当然の行動だ。おぬしに止められるようなものでないわ。それともなんだ?今、ここでおぬしがこれを買っていくか?無理だろう。お前のようなガキが買えるようなねだ」


「買おう」


 僕は奴隷商人の言葉を遮る形で口を開き、懐から金貨を取り出して見せる。


「一枚でいいか?どうせ売れぬのだろう?」


「……はっ!?」


 容易に金貨を出して見せる僕に対して奴隷商人が目を見開く。


「あまり見た目で判断しないことだ。金ならある。金貨など五枚も、十枚もある」


 僕は懐からどんどん金貨を出してみせながら二ヤりと笑みを浮かべて見せる。


「こ、これは、これはお客様にとんだ失礼をいたしました……申し訳ありません」


 それを受け、慌てて奴隷商人が謝罪の言葉を口にする。


「まずはお店の中へと……しっかりとしたお茶を出させていただきます。この奴隷についての話もそこで。それと他にも優秀な奴隷がうちにはそろっていますので」


 そして、そのままさりげなく商談の方へと入っていこうとする。


「いや、これが良い。別の奴隷を今は見る気ない。それと、時間の方もないのだ。契約の話はここでさっさと済ませよう。あぁ、それと補足しよう。これは一つの縁だ……わかると思うがぼるなよ?二度、僕が訪れないかもしれないぞ?」


「……ぐぬぬ、わかりました。金貨一枚で大丈夫です」


 ここまでの流れで明らかに悪いのは向こうである。

 こう言われれば折れるしかないだろう。

 どうせ言うことを聞けなくて使い勝手の悪い奴隷だったろうし。


「商談成立だな」


 服の値段などは正直わからないが、奴隷の値段であればわかる。

 相場よりも金貨一枚くらい安く買い叩けた。今度、奴隷を買うような機会があればまたここに来てやろう。

 商人としての能力は低いだろうし、また安く買えそうだ。

 この場でささっと金を払い、奴隷に刻み込まれている『契約紋』の支配権の譲渡を終えればこれで商談は完了である。

 金貨数枚という比較的に安価な奴隷販売であれば契約書等を書く必要もない。


 ちなみに、契約紋というのは奴隷に刻まれている魔法の一つである。

 契約紋を魔法によって刻み込まれている者は、その契約紋の支配権を持っている者からの命令には絶対に逆らえないというとんでもない縛りを与えられるのだ。

 まぁ、この契約紋をかけられても解除する方があるんだけどね。

 僕も幼少期は契約紋を入れられていたけど自分で解除したし。


「本日は本当に失礼を……またの来店をお待ちしております」


「あぁ、またよろしく頼むよ……ということで今日から僕がお前の主人だ」


「……」


 僕は自分の隣で不服そうにしている鞭打ちされてボロボロの少女へと声をかける。


「では、いざ行こう!」


「ちょっちょっ!?」


 そして、声をかけられても一切反応しない奴隷の少女の腕を掴んだ僕はそのまま強引に彼女と共に歩き出すのだった。

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