後輩な彼女は意外と律儀である
月曜日となって、授業が終わり放課後となる。
「アクル。悪いんだけど今日は一人で……二人で……先に帰ってくれないか?」
一人で帰ってくれないかと聞こうと思ったが、それはそうなのだが違うのでやめた。
二人でと言うのもなんだか変だ。いや、アクルはビッチ先輩とイチャイチャしながら帰るので二人で帰るのであってはいるのだが。
最終的に残ったのは先に帰ってくれだ。最初からこう言えばよかった。
だけど俺の頭の中は他の事でいっぱいなのだ。
そのせいで頭が回らなかったと言う事にしておいて欲しい。
「わかった」
悪いなアクル、好きなだけビッチ先輩とイチャイチャしてくれ。
そして俺は立ち上がると、ステラの方を見る。
ステラも俺の方を見ており、俺が無言でうなずくと、ステラも頷いた。
しかし俺はステラを置いて教室から出たのだ。
作戦の始まりであり、ステラにはステラの役割が、俺には俺の役割があるのである。
俺は階段を降りて、靴に履き替えると外に出た。
俺の役割はマルを呼び出すことだ。
これはマルの話である。まずはマルがいないと話にならない。
そのため俺はマルを待ち伏せすることにしたのだ。
校門の前でな。
かつてマルが同じように俺を待ち伏せしていたように、俺も校門の前でマルを待ち伏せするのだ。
マルを呼び出す役が何故俺だったかと言うと消去法だ。
今のマルはルナを見た瞬間逃げるだろうし、ステラではマルを捕まえる事が出来るかわからない。
そうなると俺がやるしかない。
しかし正直に言うと俺にも自信はなかった。むしろ一番難しい役割だと思う。
マルを連れ出せるかどうかが、この作戦の一番の問題だ。
「もう帰ったって事はないよな……」
マルが来るとしたら、早いか、遅いか、のどちらかだろう。
きっとマルは、ルナと鉢合わせしない様にそうしていると思う。
そのため俺は出来るだけ早く校門へと直行していた。
まだ終わりのチャイムが鳴ったばかりであり、生徒はほとんどいない。
とりあえずマルが帰った後でないことを祈るしかない。
「遅い方じゃないといいけどな」
そしてまだ帰ってないにしろ、どちらかというと早い方でお願いしたい。
遅い方だと、先程別れたばかりのアクルと鉢合わせしてしまうかもしれないから。それはかなり気まずい。
待っていると、俺の願いが通じたのか、マルが校舎の方から姿を現した。
当然こちらが気付くと、あちらも気が付く。
彼女は俺を見ると一瞬動きを止めたが、むしろ足を速めて突っ込んできたのだ。
そのまま俺の横を通り過ぎるつもりなのだろう。
「よう、少しいいか?」
だがそれでは困る。
俺はマルの前に立ちはだかり、通せんぼをした。
そうすると、マルは諦めたように俺の前で立ち止まる。
「何の用ですか?」
随分と警戒している様子である。
それはそうだろう。
俺はルナ側の人間として認識されているのだから。
「ここじゃちょっとな、少し付き合ってくれないか?」
「嫌です」
即答だった。
まあ怪しいよな。
そう来ると思って、一応事前にどうやって連れて行くか考えていたのだ。
「俺、初めて会った時、そっちに付き合ったよな?ならこっちにも一度だけ、付き合ってくれてもいいんじゃないか?」
そう言うと、マルはとても嫌そうな顔をした。
少し無理がある誘い方だとは思う。ただ、俺はマルは意外と律儀な奴だと考えていた。律儀な奴ならきっと乗ってくるはずだ。一度だけと言うのも強調しといたし。
俺の言葉に、マルは迷っている様子だった。
しかし迷いに迷った後に、
「少しだけなら……」
そう言ったのだ。
俺は心の中でガッツポーズを取る。
マルは、やはり意外と律儀な奴なのだ。
「じゃあついてきてくれ」
「変な事したら叫びますから」
するわけないだろ。
こいつの中で俺はどんなイメージなんだろう。
何はともあれ、俺は一番難しいと思われるマルの誘い出しに成功したのである。
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